研究課題/領域番号 |
26420500
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鬼束 幸樹 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20293904)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 魚道 / 魚の挙動 / 突進速度 / 遊泳速度 / 魚群 |
研究実績の概要 |
ダムや堰には取水口が設置されるが,取水口にサケやマスの稚魚が迷入し減耗することが,古くから漁業関係者の頭を悩ませている.今回,気泡幕について着目した.実験方法は次のようである.開水路流において流速を変化させ,魚群で遊泳するアユの気泡に対する忌避特性の解明を試みるため,ビデオを用いた魚の挙動の記録および3次元流速計を用いた流速計測を行った.その結果,以下の知見が得られた.(1)アユは遡上する際に,気泡が存在するエリアを忌避する傾向がある.(2)アユは気泡が存在する領域に進入する際に,対地速度を低下させる.気泡の存在する領域でも同様に遊泳速度を低下させる.(3)アユは気泡が存在する領域を遊泳する際に,対地距離を減少させるが,屈折角度は変化させない. 続いて,遡上率の高い魚道の条件について検討を行った.これは,魚道において遡上に必要な条件などは必ずしも明確には解明されていないことが背景にある.階段式魚道においてプール内の様々な位置に仕切り板を設置し,休憩場所の位置を制御することによって遡上率の向上を試みた.その結果,以下の知見が得られた.(1)階段式魚道のプール内に仕切り板を設置することにより,オイカワの休憩場所の制御が可能であることが判明した.(2)オイカワのプール内の瞬間遊泳位置が上流側切欠きに近い程,遡上率が向上することが判明した.(3)上流側切欠きと下流側切欠きとの間の領域に仕切り板を挿入させることにより,落下流は二分される.それに伴い,比較的流速の遅い仕切り板の上流側からのオイカワの遡上が誘発され,オイカワに疲労が蓄積されず,遡上に成功する個体が増加することが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,主として2つである.(1)魚道を利用する魚の遊泳特性を解明すること.(2)(1)の知見に基づき,遡上率の高い魚道の設計指針を示すこと.以上の2つである.(1)に関する既往の知見を述べる.小林・佐々木は実験水路と対照水路とが併設され,下流部が合流した水路において,実験水路のみに気泡を発生させた結果,サケの稚魚が気泡を忌避することを解明した.Patrick et al.はキュウリウオやニシン科のエールワイフが気泡幕を忌避することを回転水路を用いた実験で解明した.一方,野口らは実験水路の中央を境界線として,気泡混入エリアと非混入エリアを設定し,流速を0.1m/sに固定した状態でアユの遊泳挙動を観察した.その結果,空気混入率が7%以下ではアユは気泡混入エリアをほとんど忌避しないことを解明した.以上のように,既往の研究では気泡に対する魚の反応は必ずしも解明されていなかった.本研究において,アユは遡上する際に,気泡が存在するエリアを忌避する傾向があることや,この傾向が1尾で遊泳するときに顕著であるが,魚群内尾数の増加に伴い緩慢になることなどが解明された.この知見は,気泡を含む魚道内における魚の挙動の解明および遡上率の高い魚道の設計指針の確立に貢献する. 一方で,同時に進めている魚の遡上しやすい魚道の幾何学形状についても知見が得られた.階段式魚道のプール内に仕切り板を設置することにより,オイカワの休憩場所の制御が可能であること,および上流側切欠きと下流側切欠きとの間の領域に仕切り板を挿入させることにより,落下流は二分される.それに伴い,比較的流速の遅い仕切り板の上流側からのオイカワの遡上が誘発され,オイカワに疲労が蓄積されず,遡上に成功する個体が増加することである.以上のように,遡上率の高い魚道の幾何学形状の解明が順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究を行うに当たり,必要不可欠の実験装置,すなわち水路と魚道については,すでに既設のものが使用可能な状態である.水路の長さは4.0m,水路幅は0.8m,高さは0.3mであり,水路中央部における魚の挙動は側壁の影響を受けない状況である.階段式魚道はプールが3つ連結してあり,1つのプールの長さは0.7m,幅は0.6mであり,実河川に設置されている魚道と同等なスケールを有している.また,魚の挙動の記録に必要なビデオカメラや流況の把握に必要な3次元電磁流速計も有している.これらの研究資源の元にすでに研究成果が得られている.今後の研究においても,上記の研究資源を元に着実に進めることが可能である.
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