研究実績の概要 |
短波海洋レーダは,短波帯の電波を海面に照射し,散乱された電波をスペクトル解析することによって,海洋表層の流れや波浪を観測する装置である。2014年度は,直交座標格子点上における,波浪スペクトル推定手法の開発を行った。これはレーダが一基或いは二基以上の場合についても適用することが可能であった。そこで2015年度は,一基及び二基の場合について求めた波浪データの比較を行った。まず現場観測データとの比較の結果,二基のレーダから求めた波浪データが最も精度が良いことを示した。そしてその次に精度が良いのは,単一のレーダのうち,現場観測付近のドップラースペクトルの数が多い方のレーダから求めた波浪データであった。次に一基及び二基のレーダから求めた波浪パラメータの相互比較を行った。その結果,波高については、二基のレーダから求めた波高と合うのは,ドップラースペクトルの数が多い方の一基のレーダによる波高ではなく,広い範囲に渡ってドップラースペクトルがサンプルされている方のレーダによる波高であった。一方,周期については,ドップラースペクトルの数が多い方のレーダによる周期の方が,二基のレーダから求めた周期と一致した。さらにこれとは別に,自己組織化マップ解析を用いて海洋レーダによる海流データ及び風や水温などの分類を行った。これらのデータのカバーする領域は一致しない。そこでこれらのデータの分類パターンが,最も良く一致するような最適な領域を決める手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一基及び二基のレーダから求めた波浪パラメータの相互比較は初めての試みである。その結果として,ドップラースペクトルの数及びドップラースペクトルをサンプルした領域の広さによる波浪パラメータの一致の違いについて,興味深い結果が得られた。さらに波浪モデルの構築のため,風データを時間補間する新しい手法を開発した。自己組織化マップ解析を用いて海洋レーダによる海流データ解析の結果については,Ocean Dynamics誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
風データを時間補間する新しい手法を用いた波浪推算モデルを完成させる。この手法が波浪推算にどのようなインパクトを与えるかを調べる。ただこの風データ時間補間の手法は沿岸域には適用が困難なので,その改良を行う。また海洋レーダのドップラースペクトルにおける一次散乱を用いて,風向を求める。この風向から,再解析データの風ベクトルの修正を行う。そしてその修正が,島嶼の沿岸における波浪推算にどのようなインパクトを与えるかを調べる。
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