研究実績の概要 |
短波海洋レーダは,海面に短波帯の電波を照射し,散乱された電波のドップラースペクトルを求めることによって,海洋表層の流れや波浪を観測する装置である。これまでは直交座標格子点上における,波浪スペクトル推定手法の開発を行ってきた。一基及び二基のレーダを用いた場合について,報告者が開発した手法で求めた波浪スペクトルの相互比較を2015年度に行った。そしてそれらの結果を2016年度に論文としてまとめた。ところが,短波海洋レーダから波浪スペクトルを推算するのには,二次散乱を用いるため,高い信号対雑音比が要求される。一方,一次散乱を活用して海上風ベクトルが推定できれば,波浪推算も可能である。また一次散乱のみならば,二次散乱を用いる場合に比べて,高い信号対雑音比は要求されない。海洋レーダから得られた一次散乱から,海上風向を求めることができる。そこで次に,それを活用した沿岸域の波浪推算を行った。これは再解析風ベクトルデータを,海洋レーダで求めた海上風向から簡単な方法で補正する。この補正された風データから波浪推算を行った。推算された波浪パラメータを現場観測の値と比較した。その結果,島嶼沿岸域など吹送距離が風向によって敏感に変化しやすい海域では,波浪推定精度が向上することを示した。またそれに先立ち風データの時間補間の改良も行った。これは,高・低気圧の移動を考慮した補間方法である。この時間補間によって,従来の手法に比べて,補間の精度が改良することを実証した。さらにこの時間補間による風データから,近慣性振動の計算を行った。その結果,近慣性振動の振幅の推定精度が向上することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の海洋レーダから風の場を求めた手法では,現場観測データによる較正が必要である。或いは高い信号対雑音比が必要である。それに対して今回の手法は簡便であり,風の予報データが得られれば,準リアルタイムで波浪を推定することが可能である。さらに波浪モデルの構築のため,風データを時間補間する新しい手法については Earth and Space Science誌に掲載された。また一基及び二基のレーダから求めた波浪パラメータの相互比較の結果は,Ocean Dynamics誌に掲載された。
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