本研究は、交通ネットワークを利用する多くのドライバーを個々に独立した意思決定者と見なし、それらの集団が利得最大化行動を行う場合のネットワーク環境をシミュレートするアルゴリズムをゲーム理論に基づき構築し、その妥当性を検証したものである。モデルの特徴は、1)利用者は経路の所要時間上のみを利用して経路選択を行う、2)利用者はリンク走行時間関数を知らない、3)実現利得は所要時間に時間価値を乗じたもので利用者ごとに異なっていてもよい、4)利得は平均値ゼロ、有限分散のノイズをもつ、と仮定している点である。このとき、次のような経路選択モデルを得る。すなわち、経路選択行動は感度パラメータが漸近的にゼロに収束するロジットモデルで表現できる。感度パラメータは、利用者の経路評価値と実現利得の時間平均値の乖離度を表す一致性指標を用いる。このとき、時間経過と利用者の推定値は実現利得に収束し、行動は利得最大化行動である仮想プレイに漸近する。こうした、利用者の利得最大化行動は、一般化弱仮想プレイとして定式化でき、Nash均衡集合に収束する。この結果を受け、いくつかのネットワークモデルで疑似再現される走行環境の下で、提案モデルの妥当性を検証した。走行環境の設定は次の3ケースである。A)走行時間関数を使った所要時間の再現。B)Nagle-Schreckerbergモデルを用い、セルオートマトンを使った再現。C)Simulated Urban MObile (SUMO)を利用した一般的ネットワーク環境下での再現。結論から言えば、すべてのネットワーク環境下で提案アルゴリズムは利用者均衡を達成できた。特に共有情報モデルは収束性の点でも問題ない。また、今年度実施のSUMOとの連携によって、信号交差点を考慮することができ、また、Open Street Mapが利用可能なこともあり、実用化へ一歩前進したといえる。
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