本研究課題では,火山災害を対象として自然災害に対する危機管理に係る意思決定の規範的枠組みと具体的な方法論を開発した.火山災害により危機的事態が発生した場合,危機管理を担当する意思決定者には通常モードとは異なる状況判断や意思決定基準を採用することが求められる.平成27年度までに,危機管理問題における災害ステージの時間的展開さらに,危機管理に関わる意思決定モードとして,通常時意思決定モードと非常時意思決定モードについて考察した.その上で,災害ステージの展開に対応して意思決定モードを変更するための高次の意思決定原則(メタ原則)について検討し,こうしたメタ原則の下,危機管理に関わる討議システムを基盤として意思決定モードの選択・変更を正統化するための規範的枠組みを提案した. 平成27年度までの研究成果を踏まえ,最終年度は,火山災害における避難指示に関する意思決定のための方法論を提案した.避難指示に関する意思決定においては,現前で展開する災害の発生がベンチマーキングの範囲に収まるのか,あるいは想定外の異常事態であるかという高度な判断が求められる.本研究では望ましい避難ルールが満足すべき条件について考察し,無損害条件,危険回避条件を満足しつつ,可能な限り普遍化条件を満足するような最適避難ルールを作成するための方法論を提案した.また,最適避難ルールで対応できるような噴火シナリオの集合を遡見手続きにより外延として設定する方法を提案した.さらに,外延に属さないような噴火シナリオが生起した場合には,ベンチマークルールは有効ではなく,異常時対応ルールを適用せざるを得ない.本研究では,異常時対応ルールを作成する方法論も併せて提案している.最後に,本研究で提案した方法論を有珠山の噴火災害に適用し,方法論の有用性を考察している.
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