本研究は、歩行者サインシステムの改善による観光客の行動変化について、回遊する施設数の増加、および迷い行動の減少という視点から捉えることとし、サインシステムの効果的な整備について論じることを目的としている。 前年度までの研究において、サインシステムの整備によって来訪者は合理的な経路選択行動を行う傾向にあることが明らかとなった。すなわち、歩行者の行動特性は、直進を選択するという行動パターンと、目的地の方向に近付いて行くという行動パターンのどちらが優先されるかで表現できるが、サインシステム整備後は後者が優先されていることを明らかにした。さらに、訪問施設数が改善後には増加していることを明らかにした。一方、迷い行動に関しては、サインの改善によって迷い行動が減少しているとは言えない状況であった。その理由としては、サイン整備によって回遊性が高まり、訪問施設が増加した場合、サイン整備が必ずしも十分でないエリアにおいて迷い行動が増加するのではないかと推測された。 そこで、28年度においては、改めて、奈良県が改善したサインだけでなく、東大寺や春日大社等の社寺が独自に設置しているサインも含めて悉皆調査を実施し、迷い行動が多い地点あるいはエリアと、サイン設置の関係を詳細に調べ、迷い行動の発生原因について分析した。その結果、奈良県設置のサイン数が少ない個所、県設置と社寺設置のサインが混在し来訪者に適格な情報を与えていない個所等を具体的に示すことができた。そして、それらを総合して、奈良公園における歩行者サインシステムの更なる改善について論じた。
|