研究課題/領域番号 |
26420527
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧野 育代 東北大学, 環境保全センター, 助教 (00542060)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 夜間計測 / メタボローム / アオコ / 二次代謝物 |
研究実績の概要 |
水資源の飲料化にとって極めて深刻な影響を及ぼす有害アオコは、主に藍藻類であるMicrocystis属によって形成されている。Microcystis属の細胞は窒素源である糖やアミノ酸といった代謝物、および、たんぱく質を液胞に蓄積し重くなって沈降する。沈降した細胞は糖をエネルギー化することで空胞を作り浮上する。これを繰り返した細胞は自らが分泌したバイオフィルムにより集結し、湖面を覆うようなマット状の有害アオコを形成するに至る。また、Microcystis属は7種のアミノ酸からなる無毒あるいは有毒のミクロキスチン(microcystin)を生合成するが、毒性を有するようになる要因については明らかにされていない。 他方、メタボロミクスは細胞の基幹代謝成分の変化を網羅的に検出し、生命現象の背後にある因子の探索を可能にする観察技術である。Osanaiら(Environmental Microbiology,2013)は、非窒素固定型藍藻のシネコシスティスの窒素欠乏環境におけるメタボローム解析を行い、主に二次代謝物の変化から、窒素欠乏環境が細胞を休眠状態にさせ細胞にエネルギーが温存されるような、まるで越冬を見越したかのような生態的戦略を取ることを明らかにし、藻類における代謝物の検出・同定はその生態を理解するうえで極めて有用であることを示した。本研究ではその成果を応用し、アオコのメタボローム解析を実施して、水資源の飲料化が見込まれる貯水湖における水質保全に寄与することを目標とする。 昨年9月に貯水湖においてアオコを採取し、メタボローム解析を実施した。その結果、光合成する日中のアオコと、光合成しない夜間のアオコとでは、代謝物の濃度および成分ともに大きく異なることが明らかとなった。特に、昼間はアミノ酸の濃度が上昇しており、microcystinの生合成にかかわっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アオコの形成種は、年によって大きく異なる。平成26年度に計画していたアオコの採取については、対象地の9月におけるアオコの形成種がほぼMicrocystis属であったことから予定通りのアオコを取得できた。また、濾過の影響を受けやすいと考えられていたメタボローム解析用としてのアオコのサンプル化にも成功した。 アオコが衰退する時期である9月の晴れた日に現地調査を行い、貯水湖の終日観測を実施した。アオコは時系列で採取し、太陽光を浴びた光合成後のアオコと日没後のアオコとについてメタボローム解析を実施した。その結果、光合成する日中のアオコと、光合成しない夜間のアオコとでは、代謝物の濃度および成分ともに大きく異なることが明らかとなった。特に、昼間はアミノ酸の濃度が上昇しており、時間帯として、日中にmicrocystinの生合成が促進されている可能性が示唆された。一方、水中におけるアオコの生態については、日中のサンプリングに問題があり明らかにできなかったことから、平成27年度のアオコ採取の時期までには、水中で拡散する細胞の回収方法を確立する必要がある。 本課題における重要な小テーマであるmicrocystinの生合成において、時間帯の限定を推測したこと、ほぼ予定通りのメタボローム解析を実行できた事から、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成27年度では、引き続き現地調査、アオコの終日観測とサンプル化、メタボローム解析、およびデータ分析を行う。それらの平成27年度に得られる資料・データを基にして、アオコの浮き沈みの状態とアオコの有害化・肥大化に関するモデルの作成に取り掛かる。さらには、平成26年度において、日中にmicrocystinの生合成が促進されている可能性が示唆されたことから、microcystinの生合成にみるアオコの有毒化について、その要因となる物理化学的要素と環境要素とを追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(20万円)は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成27年度請求額(110万円)とあわせ、平成27年度の研究遂行に使用する予定(合計130万円)である。
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次年度使用額の使用計画 |
専門機器を使用するメタボローム解析の費用(70万円)、現地調査のための旅費(20万円)、学会発表のための渡米費用(20万円)、その他としてサンプリングにかかる物品費等(20万円)を平成26年度の未使用額と平成27年度の請求額とで賄う予定(合計130万円)である。
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