典型的なアオコ形成種であるMicrocystisは鉛直方向に運動する単細胞のシアノバクテリアである。しかし、鉛直運動を繰り返し増殖するうちに水面へ留まるようになり、やがてアオコを形成する。細胞が排泄したバイオフィルムは細胞と細胞とが集結する役目を果たす。メタボローム解析の技術を用いて水面と水中の2群でMicrocystisの低分子候補化合物を統計解析した結果、主成分1において水面と水中とはきれいに区分され、細胞内で生じている化学物質の量・質的変化の多くは細胞の運動に関わっていることが示唆された。具体的には、水面では主に光合成によりエネルギー源を獲得するのに対し、水中ではタンパク質の分解あるいはアミノ酸の合成に伴いエネルギー源を獲得する傾向が強いことが明らかとなった。この結果は、光合成による糖(グルコース)の合成が水面において十分量に満たされる一方で、水中においてはそれが困難となるため、糖を分解することでエネルギー源を獲得するといった代謝経路の方向の切り替えが生じていることを示すと考えられた。さらに、Microcystisは深夜(2時)も鉛直運動を繰り返しており、光合成によるエネルギー源の獲得方法とは異なった代謝経路により、エネルギー源を獲得していると考えられた。同位体窒素を用いたMicrocystisのN15の変化からは、水中に対して水面においてN15が高かった。このことは一般的に細胞骨格の材料が細胞内に蓄積していることを示している。代謝産物解析においても、水面で細胞骨格の材料および核酸類が蓄積されていた。これらのことから、時間的タイミングの詳細は今後の課題となったが、水面において細胞分裂の物質的な条件が整っていることが明確になった。
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