嫌気性芽胞菌のノロウイルスや糞便汚染の指標としての有効性を評価するために、相模川水系および江の川水系などをフィールドとして、嫌気性芽胞菌濃度およびその毒素遺伝子型について調査した。また、同時に対象河川の流域の状況、すなわち、特定事業場等の糞便汚染源の分布と放流状況、人口密度、家畜飼育頭数などを関係機関への問い合わせや公開データベース、現地踏査によって調査した。 嫌気性芽胞菌のうち、cpe遺伝子保有株の分布は、人口密度や下水放流水等の流域への排水状況と強い関係性を有していることが明らかになった。一方で、流域の牛、豚などの家畜飼育頭数との間にはあまり関係性が認められなかった。これは、先行の研究で示したcpe遺伝子保有株のヒト由来排水での偏在性の結果と合致するものであり、cpe遺伝子保有株の分布状況を利用することで、水環境においてヒト由来糞便汚染のソーストラッキングが可能でることが示された。 また、本研究の過程で、嫌気性芽胞菌の高率的な分離、培養法についても併せて検討を行った。現行の公定法で用られているハンドフォード改良寒天培地には抗菌剤としてエリスロマイシンが含まれているが、水環境中の嫌気性芽胞菌にはエリスロマイシンに高い感受性を有する株が存在し、エリスロマイシン濃度によっては嫌気性芽胞菌の検出性が大きく異なることが明らかになった。このうち、下水から分離したエリスロマイシン高感受性株のエリスロマイシン最小阻止濃度(MIC値)を評価したところ、現行の公定法用培地から半減することで高感度、高効率に嫌気性芽胞菌を検出できる可能性が示された。
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