研究実績の概要 |
実下水処理場の処理水中のカビ臭物質Geosmin, 2,4,6-TCAの濃度を調査したところ,調査対象の東京近郊の大規模な処理施設のすべての放流水から採水場所平均で12~44 ng/LのGeosmin,6.9~24 ng/Lの2,4,6-TCAを検出した。しかし,大学の生活系排水を処理する活性汚泥処理施設の処理水からは,塩素消毒前も塩素消毒後もこれらの物質の検出濃度は低く,これらのカビ臭物質は,生物処理を行えば必ず生じるものではないことがわかった。放流水中の2,4,6-TCA濃度の高い処理場の流入水にも2,4,6-TCAは微量しか含まれておらず,また,活性汚泥上澄水には,処理水と同じレベルで含まれていることから,処理水の塩素消毒前の生物反応タンクにおいて2,4,6-TCAが生成していると考えられた。また,2,4,6-TCA以外に2塩素化アニソールの存在を検討したところ,2,4-DCA,2,5-DCAと2,6-DCAの生成が確認されたが,2,3-DCA、3,4-DCA、3,5-DCAは検出されなかった。 次に,実験室内でのコントロールされた条件下での2,4,6-TCAの生成を検討したところ,活性汚泥を嫌気条件に暴露すると最大200 ng/LのGeosminが生成した。また,廃糖蜜と塩素を反応させたあと,微生物による反応をさせることで2,4,6-TCAが5.0 ng/L程度生成した。グルコースに塩素を反応させた後に生物反応をさせた場合やフェノールに塩素を反応させたあと同じ処理をしたサンプルではともに2,4,6-TCAの生成は認められなかった。また,活性汚泥に直接塩素を加えたサンプルにおいても2,4,6-TCAの生成が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
科研費交付前や2014年度の調査データの再現性を確保するための現場調査を大規模処理場,小規模浄化槽,河川について継続するとともに,いくつかの2,4,6-TCA以外の臭気物質についても調査対象に加え,調査を継続する。また,生成メカニズムについては,実験室内での純物質を初発とした塩素接触/微生物反応を継続をおこない,2,4,6-TCAの前駆物質を明らかにする。また,初年度結果を出すに至っていないGC-O分析によって,環境水に含まれるこれまで注目されていないカビ臭物質(2,4,6-TCA, ジオスミン,2-MIB以外)を同定することにチャレンジし,うまくいけば,その物質についても現場調査項目に加える。また,より実務に役に立つ研究とするため,消毒方法や排気脱臭方法の臭気物質生成への影響について調べる。また,食品工場の廃水についても事例をいくつか検討する予定である。
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