エンドトキシン(ET)は血液を介して体内に入ると炎症やショックなどの症状を起こすことが知られており、医療現場における水質管理に特段の注意が求められている。これまでに浄水処理のうち凝集沈殿・砂ろ過により9割程度まで除去されるが、塩素消毒により増加する場合のあることが判明している。今年度は、水道水から単離した細菌株の塩素消毒実験によるET活性の時間変化ならびに実際の浄水場の塩素処理前後におけるET活性の増減について調査を行った。 給配水過程を模した連続通水実験により単離した従属栄養細菌の単離菌のうち、高ET産生株および低ET産生株を各1株用い、細菌原液に次亜塩素酸ナトリウム(最終濃度1.0mg/L)を添加して攪拌、定期的に遊離ET活性値、総ET活性値、遊離残留塩素濃度、pH、従属栄養細菌数(HPC)を測定した。従属栄養細菌の単離株2株とも、細菌数自体は塩素との接触直後にほぼゼロとなるものの、ET活性値は接触後2時間まで上昇し続け、初期ET活性値の3~5倍に達した。その後は緩やかな減少に転じ、48時間後には初期ET活性値の1/2~1/3程度まで低減した。水道水中に残存する従属栄養細菌に由来するET活性には、塩素の酸化反応によって①数時間以内に速やかに付加される部分、②数日間かけて不活性化される部分、③ほとんど反応せずに安定する部分の存在することが確認された。 A浄水場の原水から浄水に至る処理工程のET活性値を測定したところ、前塩素処理により原水中ET活性の40%程度が不活化されたものの、急速ろ過後から浄水に至る間に約10%上昇した。当浄水場における前塩素注入から配水池(浄水)までの到達時間は約6時間、中塩素注入から配水池までは約4時間と推定されることから、浄水処理工程にて残存する細胞外膜が塩素による酸化反応を受けたことで、ET活性が上昇した可能性が考えられた。
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