本研究課題の主題である構造物の「ロバスト性」は,実世界のさまざまな不確実性(ばらつき)に対して構造物が性能を維持できる余裕度を表す概念であり,工学のさまざまな設計問題で重要視されている.本研究課題では,特に,ばらつきの確率論的な情報が得られていない(または,不完全にしか得られない)場合を想定し,ばらつきの範囲のみを指定する方法論を扱っている.このとき,ロバスト性は,構造物にとっての最悪のシナリオを求めることにより,定量的に評価できる.この最悪シナリオを求める問題は,一般に最適化問題として定式化できるため,ロバスト性の評価と最適化とは密接な関係をもつ.本研究課題では,この関係性に着目し,構造物を取り巻くさまざまな不確実性を考慮して,構造物のロバスト性の評価法から設計法まで幅広い研究を展開した. 平成29年度は,主に,次の二つの観点から研究を行った.一つ目は,前年度に明らかになったトラスの位相のロバスト最適設計の定式化の困難点を解決することである.つまり,節点外力のばらつきを考慮したロバスト最適化では,いわゆる中間節点の有無に解が依存する点が,従来は見過ごされてきた.大域的な最適解を得るためには,この中間節点の有無を扱える定式化と解法が必要となる.これを解決するために,相補性制約とよばれる制約を導入し,この定式化に基づく新たな解法を提案した. 二つ目は,ある意味でロバスト性の上位概念とみなせるレジリエンスの定量的評価の手法の開発である.レジリエンスは,さまざまな定義があるが,一言で言えばロバスト性の概念に復旧までの時間軸を加えた概念である.この研究課題では,復旧時間の推定には必然的に不確かさが伴われることに着目して,その不確かさを考慮しながらレジリエンスを評価する手法を提案した.また,その応用として,耐震構造と免震構造のレジリエンスを比較した.
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