本研究は,地震時にひび割れが発生しにくい壁部材の開発研究であり,次の2つのテーマが含まれている.一つは,2004年に九州大学の崎野らが開発した「制振壁」に含まれるCFT短柱の実験である.もう一つは,「制振壁」のもつ高耐力,高エネルギー吸収性能を放棄する代わりに,優れた施工性とひび割れ制御性能を有する新しい耐震壁の開発である.前者は,せん断スパン長さaと柱せいD の比a /D(せん断スパン比)が1.0より小さい極短柱の正方形と長方形のCFT試験体を合計28体作成し,一定軸力下における繰返しせん断力を載荷する実験を実施した.実験では,全てせん断破壊が先行し,CFT柱のせん断性状を調べることができた.特に強軸方向曲げとなるせん断力を受ける長方形CFT柱は,そのせん断耐力が,現行のCFT指針の耐力評価で,過大となることが分かり今後の課題となった.後者は,合計10体の試験体の作成ののち,一定軸力下における繰返し水平力を与えた.本研究で開発した壁脚部に水平スリットを有する新しい耐震壁は,安定した紡錘形の荷重-変形関係を有するとともに,壁面のひび割れを抑制できることが分かった.この壁の水平剛性および水平耐力は従来の手法で精度よく評価できている. 研究期間内に,CFT短柱試験体28体,耐震壁試験体10体を作成し,実験を実施することができた.予定よりも多く実験を実施でき,短期間に集中して研究を進めることができた.この研究期間内に,研究代表者は,九州大学から長崎大学に異動した.研究環境が変化したが,予定を上回る研究成果を上げることができた.
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