都市の地震災害を最小限に抑えるためには震災後に個々の建築物の機能を如何に早く復旧させられるかが重要であるが、それ以前に個々の建築物がどの程度の損傷を受けているかを迅速に把握し、その損傷に応じた応急復旧を計画することも重要である。本研究課題の目的は、鋼部材の構造実験を行い、被災地にて観察される損傷状況を再現するとともに、損傷にかかわる情報を数値化することにより、個々の建築物が被った損傷の程度を“初動調査時にスクリーニングする”ための簡便な損傷評価手法を構築することである。 最終年度では、まず角形鋼管柱、H形鋼柱を対象とした一定軸力下での繰り返し載荷実験を行い、鋼柱の残存耐力と局部座屈変形の関係を把握した。次いで、両者を関係づける力学モデルを提案し、その妥当性を示すとともに、各種パラメータに応じた局部座屈変形に基づく鋼柱の残存耐力評価法を提示した。あらかじめ局部座屈変形に対する残存耐力の図表を用意しておけば、被災時の鋼柱に生じた局部座屈変形を実測し、図表に当てはめることで、即座に残存耐力を推定することが可能となる。 このほか、昨年度までにブレース材については、材中央部に残留する面外変形を材長で除した残留たわみを損傷指標とし、引張側の最大塑性ひずみとの関係を表すとともに、実験結果との比較から有効性を確認した。また、上記の関係を層間変形角との関係として整理し、残留たわみから構造骨組の経験した最大層間変形角を推定する方法を示した。この結果から、例えば残留たわみが2.5%以下であれば最大層間変形角は1/200rad.以下であったと推定でき、当該建築物の継続使用を決断する一つの判断材料となる。 以上より、鋼構造建築物の主要な耐震要素であるブレース、柱材を対象とし、被災地における簡便な実測から地震時の損傷状況、残存耐力を推定する方法を構築した。
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