研究課題/領域番号 |
26420588
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
成田 健一 日本工業大学, 工学部, 教授 (20189210)
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研究分担者 |
三坂 育正 日本工業大学, 工学部, 教授 (30416622)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒートアイランド / 蒸発冷却 / 体感温度 / 暑熱緩和 / 音仮温度 / 超音波風速温度計 |
研究実績の概要 |
昨年度の実験により、音仮温度を用いた気温計測法の実用性が検証できた。しかし、超音波風速計の温度目盛りの経時変化が予想以上に大きく、その原因追求と対処方法の考案手間取ったため、ミスト粒径の影響など、予定していた実験の一部が実施できずに終わった。そこで2年目の今年は、実験の開始時期を予定よりも早め、5月半ばからスタートした。 実験サイトの仕様は昨年とほぼ同様であるが、今年は屋根面についても、側面と同様の透明波板を施工した。まず、ミストの粒径を20μmから60μmまで5種類のノズルを用いて変化させ、あわせてノズルの設置密度を2段階に変化させた状態で、系統的な気温低下の瞬時変動を計測した。1秒毎の気温変化から、各測定点における気温低下の持続時間分布を解析するとともに、それらを基に、気温低下出現率を-1℃、から-5℃まで、1℃刻みで算出した。大半の気温的は、持続時間が5秒以内となっているが、30秒以上持続する場合も見られた。持続時間の出現分布は、湿度・風速条件、ノズルの数によって変化した。 次に、ミスト噴霧による涼しさのメカニズムを探るため、ミスト噴霧下において被験者実験を行った。椅座安静状態の被験者(半袖半ズボン)の周囲、高さ0.13~2.0mに超音波風速温度計9台を配置し、1秒毎の気温変化を測定すると同時に、肘掛けに水平においた右下腕部の皮膚表面温度をサーモカメラで3秒毎に収録した。さらに、右手の4指の位置にボタンスイッチを設けたボックス(ボタンで出力電圧が変わる)を自作し、ミスト噴霧時の体感温度を、押さないを含めた5段階で評価させ、1秒毎に申告値を収録した。 体感温度申告値は上半身付近の気温に対する反応が大きく、皮膚温度との相関は明確ではなかった。今回の結果からは、皮膚へのミストの付着に伴う蒸発冷却の効果が体感温度に及ぼす影響は小さく、涼しさの主因は近傍気温の低下であると解釈できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波風速計の温度目盛りの経時変化という予定外のトラブルで、昨年度は予定した実験の一部を積み残したが、今年度は、梅雨明け以降に予定していた実験を5月中旬からスタートしたことで、遅れを挽回できた。なお、実験期間が長くなったため、ミスト発生装置のレンタル費用の追加分が発生した。 今年度の中心課題としていた被験者実験に関しては、5人の被験者を用いて計92回のデータが取得できた。体感評価の細かい時間変化を把握するための自作のボタンスイッチも、試行錯誤しながら満足のいくものが作成でき、順調に作動した。3秒毎という細かい時間間隔で、気温の瞬時変動と皮膚音の変化を同時測定したデータは、これまでになかった貴重なデータセットである。 今回の測定では、熱画像による皮膚温度の瞬時変動を解析したが、予想以上に皮膚温度の変化が小さく、体感温度との相関も大きくないという結果となった。ただし、熱画像による皮膚温の測定精度にやや疑問が残った。カメラと対象との距離は1.5m程度であったが、その間を通過するミスト自体の影響が熱画像動画から推測された。また、皮膚温の変化が小さいからといって蒸発によって熱が奪われている量が必ずしも小さいとは断定できない面もあると思われる。今回、ピンポン球を黒塗装した小型グローブ温度も計測したが、応答が良くないため申告値との対応関係は認められなかった。 測定方法をさらに工夫し、皮膚の濡れ影響の寄与について、さらに検討を加えたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の大きな目的の一つは、ミスト噴霧下で感じられる涼しさに、微細ミストが皮膚に付着し、それが蒸発する際に奪われる蒸発冷却効果が、どれくらい寄与しているかを明らかにすることである。 今年度の熱画像による皮膚温度の解析では、皮膚温度の変化が非常に小さかったが、皮膚直下からの熱供給が生理的に起こっている場合は、それを持って蒸発冷却の効果が小さいとは必ずしも断定できない。 そこで、最終年度は、この部分に焦点を絞り、実際の人体の腕と、断熱した模擬腕での表面温度の変化を比較する実験を新たに計画している。熱容量をできるだけ小さくし、熱供給がない状態を作成すれば、蒸発冷却に伴って明確な表面温度変化が現れるはずである。両者を近接して設置してミスト噴霧を行えば、蒸発冷却の寄与を明らかにできると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額は、予算の0.8%であり、おおむね予定の予算が執行されている。
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次年度使用額の使用計画 |
蒸発冷却効果の検証のため、当初予定にはない模擬腕の製作を行うので、その費用の一部として補てんする。
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