昨年までの研究で、ミスト噴霧による皮膚表面温度の変化は小さいことがわかった。しかし、皮膚温は人体の血流の影響で温度保持をしている可能性があるため、今年度は断熱した模擬試験体を作成し、表面温度変化を比較した。直径100mmの円筒形の断熱材に黒く塗装した厚さ0.5mmのアルミ板を貼り付けたものを腕の模擬試験体とし、人の腕と模擬試験体を間近に並べ、赤外放射カメラと熱電対を用いて表面温度を連続測定した。腕の表面温度低下は小さいが、断熱した試験体の表面温度は最大で16℃近く低下した。従って、ミスト噴霧で感じる「涼しさ」には、気温低下だけではなく、皮膚に付着したミストの蒸発冷却効果も寄与していることが明らかとなった。 ミスト噴霧による暑熱緩和効果については、冷却効果の大きさや広がり、実際に感じる涼しさのメカニズムについては不明な点が多いことから、本研究では、水ミスト噴霧の気温低減効果の定量化と、体感される涼しさのメカニズムを実験的に明らかにし、効果的な設計手法を構築することを目的とした。期間全体の成果を要約すると、初めに音速の気温依存性を利用している超音波風速温度計を用い、水滴の影響を受けずに乾球温度を測定することで、微細水ミストによる気温低下領域を実測することが可能であることを示した。さらに、ミストの粒径も変化させながら、気温低下の瞬時変動について解析するとともに、ミスト噴霧下において被験者実験を行い、体感評価の時間変化と気温変動の関係を検討した。その結果、これまで計測できなかった気温低下の持続時間と出現率が、ミストの粒径・ノズルの配置、湿度・風などの気象条件でどのように変化するか、具体的に明らかにすることに成功した。被験者実験からは、涼しさの主因は近傍気温の低下であると解釈できたが、模擬試験体による実験を追加し、皮膚に付着したミストの蒸発冷却効果も寄与していることを明らかにした。
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