研究課題/領域番号 |
26420591
|
研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
近藤 靖史 東京都市大学, 工学部, 教授 (20267339)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | オイルミスト / 業務用厨房 / 空間分布 / 粒子数濃度 / 質量濃度 / 重力沈降 / 凝集 / CFD解析 |
研究実績の概要 |
工場や業務用厨房において発生するオイルミストは臭気や汚れの原因となる。また、ダクトに付着したオイルミストは火災の原因となる。これらの課題を解決するためにはオイルミストの挙動を把握する必要がある。業務用厨房を対象とした既往の研究では、オイルミストの粒子数に着目すると粒径の小さいオイルミスト(1μm以下)が卓越しているが、質量に着目すると粒径の大きいオイルミスト(1μmから数10μm)が重要となることが明らかにされている。 平成26年度の研究では、決められた手順に従い調理を行う実調理実験と、模擬負荷装置を使用した模擬調理実験とを行い、発生するオイルミストの粒度分布を測定した。模擬調理実験においては模擬負荷条件を調整し、実調理実験の結果との対応を検討し、実験室内のオイルミストの空間分布を測定した。 平成27年度の研究では、下記の2点を検討した。 1 オイルミストのエアロゾルとしての特性である重力沈降、凝集、壁面への吸着・脱着を実験結果とCFD解析結果に基づいて検討した。粒径が非常に大きい数10μmのオイルミストには重力沈降の影響が表れること、凝集はオイルミスト濃度が非常に高い調理機器直上部にのみ見られること、オイルミストの壁面への吸着の影響は大きいことなどが確認できた。 2 平成26年度のオイルミストの粒径ごとの空間分布の測定結果をCFD解析により再現する手法を検討した。すなわち、重力沈降と壁面への吸着を組み込んだ上で計算する手法を検討した。この結果、重力沈降の影響はほとんど見られないこと、CFD解析ではフライヤ上部の熱上昇流の拡散を小さく見積もる傾向があることなどが確認できた。また、オイルミストの空間分布を精度よく求めるには、気流場の再現性が最も重要であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 オイルミストのエアロゾルとしての特性の検討 調理機器直上におけるオイルミストの粒度分布を測定し、鉄板面上部750mmの結果と鉄板面上部1000mmの結果を比較した。粒度分布の形状や最頻値に大きな差異はないが、粒子数濃度が半分程度に減少していた。このことから、調理機器上の熱上昇流内において、0.2~0.3μmの範囲で凝集による粒子数の減少が生じている可能性があると考えられる。しかし、凝集によるオイルミストの粒子数濃度の時間変化を算出したところ、本実験で得られた濃度下では凝集に非常に長い時間がかかることが分かった。このことから、粒子数濃度の減少には凝集の影響は小さく、拡散等による影響の可能性が考えられる。 2 粒子径の大きいオイルミストのエアロゾル特性をCFD解析へ組み込む方法の検討 オイルミストの粒径ごとの空間分布をCFD解析により再現する手法を検討した。具体的には重力沈降と壁面への吸着を組み込んだ上で計算する手法を検討し、平成26年度の実験結果との比較を行った。重力沈降はStokesの重力沈降速度式を用いて組み込み、壁面への吸着はルイスの関係から想定した対流熱伝達率を物質伝達率に変換して与えた。なお、壁などの物体表面はオイルミストに対しパーフェクトシンクであるとし、一度吸着したら脱着しないものとした。この結果、重力沈降の影響はほとんど表れなかった。また、CFD解析ではフライヤ上部の熱上昇流の拡散を小さく見積もる傾向があるため、擾乱気流を与えた。この場合、オイルミストの粒径ごとの空間分布におけるCFD解析の結果と実験結果との対応を良好であった。 以上のように、当初想定した内容をおおむね順調に進めた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、「オイルミストに起因する業務用厨房内空気環境の問題に対する改善手法の検討」を実施する。平成27年度までは実験室内を対象に研究を進めてきたが、平成28年度は実際の業務用厨房をモデル化し、オイルミストの空間分布をCFD解析により検討する。フライヤなどからのオイルミストの移流・拡散状況をCFD解析結果から考察し、オイルミストによる問題を解消する方法を検討する。本研究の代表者のグループによる既往の研究では、従来の局所空調方式より天井給気型置換換気方式の方が換気効率と空調効率が高いことが示されている。オイルミストの問題に対して、天井給気型置換換気方式が有効であるかなどを検討する。なお、当初の計画では「オイルミストに起因する工場内空気環境の問題に対する改善手法の検討」も予定していたが、工場内のオイルミストの実態を調査することができなかったため、平成28年度は業務用厨房に焦点を絞って検討を進めることとする。その理由は、工場内ではオイルミスト以外の粉じんが同時に測定されてしまい、オイルミストだけをとらえることは困難であると判断したためである。
|