本研究は近代期の韓国南部地方麗水地域の近代民家について日本の海洋文化圏の影響の側面から究明しようとするものである。そのために、①近代期伝統民家の変化・発展様相の解明:伝統民家が近代期の社会文化的変革の過程でどのように変化・発展してきたか、麗水地域の民家を対象に究明し、②麗水地域の近代民家の成立と実態を明らかにする、③麗水民家の海洋的性格を確認:麗水文化のアイデンティティは海洋に根拠を置くといわれており、麗水地域の内陸・海岸・島嶼別民家の実態を総体的に把握する、④近代民家の成立における日本の影響について:九州圏の民家と麗水の民家を比較し、近代民家の系譜を再構築するとともに、麗水圏と九州圏をつなぐ海洋文化圏の検証につなげる知見を得ることを目的とする。今年度は麗水近辺の島嶼地(巨文島、突山島)の集落に対して基本資料の収集および現地調査(間取り、木架構造や部材の確認および実測、外観・配置・建築材料の確認、マダンの構成方式等)を行った。調査分析の結果、麗水近代民家の平面構成と平面寸法、部屋の機能分化、縁側構成等における変化を確認した。また、近代期に関麗連絡船の開設で交流の多かった下関の港地区(新地西町、唐戸エリヤ等)調査を実施した。きつい斜面の横長狭小地に建つ住宅は昔の面影を残し、麗水の港地区の集落と似た風景を醸し出していた。 今年度は研究の最終年度で、これまでの調査の分析結果から近代期麗水地域の近代民家における日本の影響について、平面・構法特性を中心に伝統性の継承と近代化要因(建具、建築材料、付属空間、マダン構成等)の確認に焦点を合わせ、近代民家たる形式性を明らかにした。そして九州圏とつなぐ海洋文化圏の影響の側面から本研究を総括し、報告書をまとめた。
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