研究課題/領域番号 |
26420615
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
横山 俊祐 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (50182712)
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研究分担者 |
徳尾野 徹 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80237065)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | セルフリノベーション / 改修内容 / 住み手主体 / 経時的変化 / 即地・即人・即時性 / 個性化 / ボトムアップ型 / 持続性 |
研究実績の概要 |
住み手自らが住戸の改修を行なうセルフ・リノベーション(SR)を対象に、住み手によるSRの取組み実態を把握し、トップダウン型改修との差異や住み手にとってのSRの有意性を考察した。 SR賃貸共同住宅17団地に居住する40世帯を対象に、戸別訪問により、SRの目的や内容、施工方法、SRに対する評価、住まい方などのヒアリング調査、並びに実測調査を行ない、以下の結論を得た。 1.入居動機やSRに関する経験・技術等に関わらず、住み手は、自らの住要求に応じたSRに取り組んでおり、SRへのニーズの高さが顕著である。2.その内容は、床・壁・天井等の仕上げの変更が最も多く(9割)、次いで棚やフックや造作家具の設置などの軽微なSR(8.5割)、電気配線や器具の新設などの設備改修(5割)となる。壁の撤去・新設といった、大掛かりなSRも4割弱を占め、改修部位では[空間改変型・仕上げ変更型・造作付加型]、改修目的では[機能面/用途改変型・不便解消型、意匠面/理想実現型・状況対応型]など、部位、方法、程度に関するSRの多様なタイプが見られる。3.事業者が設定した可能範囲や方法などのSRに関するルールを住み手は遵守し、また、工事騒音などにも配慮するなど、自律的なSRが実施されている。4.経時的な変化では、入居初期段階で、壁の改変や仕上げの大幅な変更、設備更新など活発に行なわれ、入居後に、棚や造作の設置などの軽微なSRが随時、アドホックに、継続的に取り組まれている。 SRの特性は、計画・施工・使用を統合しながらも、即人的・即地的・即時的な対応による住まいの個性化や現代化の実現、機能と意匠の両面の充足、入居前後の活発な取り組みとその後の継続性等にある。また、SRが共同住宅における住まいづくりのパラダイムを「自律・個別・一体・動的」に転換するうえで、有用な方法であることを、住み手の立場から実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的である住み手によるSRの取り組みの実態・特性の解明に関して、当初の住戸の空間状態や改修手続き、事前相談や改修サポートなど、ハード・ソフトの賃貸システムの異なる共同住宅を選定し、当初の計画を超える40世帯を対象とした戸別訪問調査によって、SRの実態(内容・方法・目的・入居前から入居後の経時的な取り組み)、SRに対する住み手の評価(改修内容・住まい方・手続きやルールなどのソフト面)など、詳細なヒアリングデータを収集するとともに、SR箇所を逐一確認しながら、動機・意図、時期、施工方法、材料、評価などの実態と実測による図面採集・写真撮影を行なうことが出来た。 その結果を取り纏めて、居住者属性、入居動機、SRに関する経験・技術・意欲、箇所毎のSRの経緯・目的・使用材料・施工方法・時期・成果・評価などのSRの取り組みのプロセス、SRや住まいに対する評価、意識、住まい方の変化、SRに伴う近隣関係の生成などを、各世帯別に詳細に記録・整理したデータシートを作成することができた。 それを活用して定量・定性分析を行い、SRの程度と入居者属性やSRの習熟との関係、SRの経緯・目的(向き合い方)についての分類[機能重視型(用途改変/不便解消)・意匠重視型(理想実現/状況対応)]や内容・程度についての分類[空間改変型・仕上げ変更型・造作付加型]、さらには、入居前・入居当初・それ以降の三段階における時系列的な取り組み状況を視点とした分類[収束型・間欠型・拡大型]などを行ない、各分類やその相関性によって、SRの特性を多面的に解明するとともに、その生成要因の検討を行なうことが出来、当初に予定していた研究計画を達成することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる今年度は、調査データの更なる分析を進め、事業者・住み手の双方からみて、事業性や両者の関係性、SRに対する住み手の直接的な評価や実態を通しての効果、さらには、入居経緯、SRへの積極性や住まいへの意識の変化(愛着・自信・メンテナンス意識など)、住意識(近隣関係、団地内の活気、住み心地など)などの指標とSRによって即応的にカスタマイズされた住空間との対応関係の検証によるSRが住まい・住まい方(住まい方の変化・来客や接客への意識・住まいの設えなど)や集住コミュニティ(SR導入による新旧居住者の付き合い・新居住者同士の付き合い・SR技術や知識の交換などによる人的つながりなど)への意識にもたらす効果など、SRの必要性・有意性を解明する。 また、SR賃貸住戸の空間条件[原状・裸貸し・事前改修+下地・事前改修済み]や改修可能範囲の設定などのハード面と、入居前の相談・恊働、改修手続きの方法、SRを技術的・時間的・経済的にサポートする仕組みや貸し手と借り手の関係などのソフト面による賃貸システムを対象に、住み手がどのように評価しているか、SRの内容や程度とどのような関連があるかを解明し、SRを促進し、質的向上を図るためのハード・ソフトの賃貸システムのありようを検討する。 そのうえで、住み手に対するSRの自由度と貸し手に対する事業性との合理的なバランスが得られる賃貸条件を解明することで、最適なSRの計画技術を提起する。また、本研究の成果を社会に向けて発信するために、研究成果をもとに提示するSRの計画技術について模型や図面等を作成し、行政・建物所有者・不動産仲介業者に提案し、ディスカッションすることから計画技術の精度を高めるとともに、良好なSRの実践と普及に向けての社会活動を積極的に展開する。
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