研究課題/領域番号 |
26420619
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
小早川 裕子 東洋大学, 国際地域学部, 講師 (90459842)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 土地取得事業 / 条項93-1 / コミュニティ開発 / 社会関係資本 / 都市貧困層 / フィリピン、セブ市 / 参加型開発 / コミュニティ・ガバナンス |
研究実績の概要 |
本研究の大きな実績として、10年以上棚上げ状態にあった土地取得事業の条項93-1事業に対し、当該地域住民が本格的な土地取得のために立ち上がり、彼らが1993年から2003年までに返済できなかった残額を3倍にし、それを今後10年間で返済していくことを決断し、条項93-1の案件を土地所有者である州政府知事に提出した場面に立ち会うことができたことである。そこでは、州政府の土地に住む住民らと、地域の元町長であり元セブ市議会議員、国家土地取得事業政策の策案者であり、当該地域に導入されて以来携わってきた元財団法人、そして、知事の4者の前向きな合意が見られた。 どのアクターも期待し、解決するかのように見られた条項93-1であったが、州政府とセブ市政、また、セブ市政と当該地域のリーダーの間に事業の最終的な合意がまとまらずにいたところ、これに28年の5月に行われるセブ市長選挙運動が始まり、今日まで解決されずに依然として放置状態にある。 当該地域のパワー関係は複雑を呈している。地域の町長は現市長を支持し、当該地域出身の市議会議員はもう一人の市長候補者を支持している。そのため二人の地域リーダーの意見は真っ向からぶつかり合い、現在、当該地域住民は二つに分断されている。州知事に提出した条項93-1に対しても、町長は、セブ市政が予算を付けているため未返済分を3倍にして支払う必要はないと住民に説明し、誓約書に署名しないように訴えていた。 研究の最終年度である28年では、市長も決まり、土地取得事業も決着する見込みである。住民の提案が活かされるのか、それとも、町長の意見が本当のものなのか、明暗が明らかになる。しかし、1年近くに及ぶ市長選挙運動で滞った市の事業は山積し、条項93-1事業の優先順位がどの程度なのかは計り知れない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度、27年度の調査で住民による返済計画のデータを入手することができた。また、「研究実績の概要」で示した通り、あらゆる市の事業を静止するような市長選挙運動で土地取得事業自体には進展を見ることはできなかった。その一方で、当該地域の土地取得事業にまつわるアクター間の利害関係、選出される市長によって見込まれる町長、地元市議会議員、地域住民が得られるであろう利点、損害などといった社会関係資本の性質と状態を明白にすることができた。 28年度の5月で市長が決定することにより、現市長の支持派と候補者の支持派の明暗が明らかになる。どちらが市長として選出されるかで、当該地域に蓄積された社会関係資本の性質と土地取得事業の進展に大きく影響すると予測される。土地取得事業を中心とした本研究では、事業自体のプロセスとともに、地域住民のエンパワメント→コミュニティ・インボルブメント→コミュニティ・マネジメントへと持続可能で自主的自立的なコミュニティ開発の開発プロセスを研究することを最終的な目的としていることから、これまでの調査による達成度はかなり高いものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
調査最終年度である28年度では、5月の市長選挙の動向をインターネットでモニターするとともに、9月に現地調査を行う予定である。しかしながら、土地取得事業である条項93-1に具体的な進展が9月までに見られない場合は、年度内にもう一度現地調査を行う。 また、本研究を国内外の学会で発表する予定である。
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