研究課題
本研究で研究者は、社会関係資本の蓄積に視座を据えて、都市貧困層を対象としたセブ市の土地取得事業を分析・評価し、コミュニティ開発論として構築することを目的に、住民が能動的主体へと変貌する開発プロセスを明らかにすることを最終的な目標とした。3年間の調査期間では、過去25年に渡る土地取得事業は決着に至らなかった。調査対象地域であるバランガイ・ルスは、セブ市の新商業ビジネス地域に隣接した最も土地高騰が顕著な地域である。2万人を超える正規・非正規居住者が混在するルスには、セブ州政府とセブ市政による3種類の土地取得事業が展開されている。コミュニティ抵当事業(CMP)、条項93-1、セブ市社会土地取得事業である。いずれも、返済未完了、州政府とセブ市政の土地利用不合意、住民間の地域フォーマル化に向けた意見不一致などが、これら事業を複雑、かつ、長期化させていることが調査から明らかになった。その間、土地取得事業導入により、当該地に永住できる希望を得たルス住民間の社会関係資本も大きく変容していった。住民によるコミュニティ開発は、大きく3段階に分けられる。①土地取得に向けた活動、②住環境改善に向けた活動、③コミュニティのフォーマル化に向けた活動、である。①と②の段階では、社会関係資本の構築は住民全員を包摂していったが、③では、土地取得事業を完済し、正規居住者となった住民らによる未返済者排除へと機能し始めているのが明らかになった。2017年6月に事業への未返済世帯がルスから撤去されることが決まった。スラムというインフォーマルな世界では、柔軟性と融通性が相互扶助という形で都市部における困難な生活でも可能としてきた。しかし、インフォーマル地域のフォーマル化はこれらの要素を消失させ、能動的主体となった住民による住民の追い出しへと向かわせることが見て取れた。
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ICAPPS City in Motion: Toward Adaptive & Resilient City for Tomorrow, Asian-Pacific Planning Societies 2016
巻: 1 ページ: 49-52