研究課題/領域番号 |
26420630
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
山下 真知子 大手前大学, 現代社会学部, 教授 (40461975)
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研究分担者 |
畑 耕治郎 大手前大学, 現代社会学部, 准教授 (50460986)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 学校トイレの色彩設計 / 色相・明度/彩度 / 色彩環境イメージ評価 / トイレ色彩空間のユーザー印象評価 / 色彩心理効果 / 立体可視化装置 / 色彩空間モデル心理評価実験 |
研究実績の概要 |
1. 26年度は英国(ロンドン市内)の公立小学校50リスト全て訪ねたが、調査許可が下りた学校は7校(7事例)である。26年度以前に実施したオランダ、デンマークを含む3カ国、52事例の実態色度データと写真を集積することができた。英国の事例を含むオランダ、デンマーク、西宮市の実態比較と傾向分析などは発表段階に至っていないが、3カ国については我国の事例傾向とは全く異なる共通点が見出せ、学ぶべき点を多く得た。 2.西宮市立小・中学校トイレ改修における採用色は3カ国のデータ分析結果を参考に決定し、平成26年度においては計画数を上回る42事例を蓄積することができた。 3.改修後のユーザー印象評価の回答数は3476で、その結果は採用したさまざまな色彩に関わらず、いずれも好評価を得た。このことからトイレ空間に色を入れることで児童・生徒、教員たちの雰囲気をもりたてる効果的な演出となり学校環境におけるQOLを向上させる可能性を見いだせた。これらの結果分析から未だ希少な学校トイレの色彩設計に関する新しい知見が得られ、使い手の立場から色彩を捉えた具体的な設計の体系化に向けて一歩進める段階に至る。さらに色の心理効果の一般定説と色彩空間で起こる心理効果との齟齬が明らかになり、これらを検証するために立体可視化装置による色彩環境の心理効果実験の実施へ向けて準備段階に入った。 4.改修実践で採用した塗料色と立体可視化装置で再現する光源色との視覚的な整合性を図るのに時間を要したが兵庫県立大学計算科学センター及び神戸大学統合拠点の立体可視化装置(π-CAVE)の協力を得て投影する色再現実験を繰り返し、心理実験の前段階を整えることができた。立体可視化施設では4色相3段階の明度・彩度の異なるトイレ空間モデルに対して各段階色について心理評価プレ実験を実施した。これについては27年度さらに被験者数を増やし結果分析へと進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)海外の事例調査及びデータ分析:(平成26年9月実施)欧州1カ国(英)の学校施設の調査計画件数15校のうち7校の事例調査とデータ収集を行った。調査は色度計による施設トイレの色度L*a*b*値実測と写真撮影によるものである。 (2)西宮市小・中学校のトイレ施設の色彩改修実践:(平成26年5月~7月・10月~12月実施)平成25年度迄に得た2カ国の海外45事例の知見と西宮市の学校トイレ改修後のユーザー評価に基づき、改修に採用する色彩を決定し、西宮市立小・中学校のトイレ施設5校:25改修事例の計画件数を大きく上回り春(平成26年5月~7月)4校16事例、秋(平成26年10月~12月)4校26事例を蓄積した。特に26年度の事例では実験色として中明度/高彩度色を使用し、ユーザー評価実験環境を整えることができた。 (3)色彩改修前・後のユーザー評価調査:前述の改修校において改修前・後のユーザー評価調査を実施。回収した回答数は3476回答である。 (4)立体可視化装置(π-CAVE)による色彩環境の心理効果・評価調査の前段階の整備:3Dで表現した仮想トイレモデルによる心理調査で投影する色再現(光源色)にあたり改修実践での採用色(物体色)の再現方法を提示することができた。さらに立体可視化施設における心理評価実験は神戸大学統合拠点施設においても国内初の試みであり、今後の心理評価実験での施設活用の可能性を拡げることを実証できた。実験プログラムは光源色空間下での被験者の疲労等を考慮し、4色相それぞれに明度/彩度段階を変化させた3パターンで1セッション6質問(5分)のプログラム、計12プログラムを作成した。物体色と光源色の視覚的整合性に苦心したが、最終的に物体色のマンセル数値とほぼ一致させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は (5)国内・外の事例調査の結果の提示:24~26年度に実施した欧州3カ国(オランダ、デンマーク、イギリス)の小学校トイレ施設52事例、及び西宮市の62事例の実態調査データの比較検討を経て、総合的な分析結果を提示する。 (6)立体可視化装置(π-CAVE)によるトイレモデルによる色彩環境の心理効果・評価調査の実施:これは実際の児童・生徒ユーザーによる印象評価結果と色の心理効果の一般定説との齟齬が明らかになったことにより、これらを検証するために実施し、結果の比較検討を目的としている。実験準備段階のプレ実験では被験者数が少ないものの既に色彩空間における心理効果について既存の色彩心理効果としての一般定説を刷新する新たな知見を見出せる可能性の手ごたえを得ている。これについては被験者数を増やし、結果を検証していく。他方、これらの結果のさらなる検証を試みるために実験②として具体的なトイレモデルではない単純化した色空間モデルによる色彩環境評価実験を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学から事例協力校までの改修活動移動交通費に計画していたY中学への5往復(18名@720×18×5)運賃について事例改修がY中学の都合により27年度に延期になったことによる。それに伴う塗料一式運搬保管料も27年度に発生する。また、実験指導協力者謝礼については研究者本人が実施したことで発生しなかった。さらに前段階実験被験者協力の謝礼についても協力者の人数が計画より下回ったことによる。実験施設利用費については、立体可視化装置を利用した心理評価実験等、研究施設としての活用が本研究で初めての試みで、施設側の利用にかかる費用規定が未定であったため、26年度については発生していない。すなわち、27年度以降に計画通り発生する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度に未達であった研究協力校のトイレ改修を実施する。また立体可視化施設での前段階実験の被験者協力者の人数を確保し継続して実施する。実験施設利用費については、立体可視化装置を利用した心理評価実験の本格的な取り組み、実験②にかかる施設の活用など施設側の研究者利用にかかる費用規定が定められた時点で発生する。
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