世界に誇る我国の歴史的な木造建造物を維持保全するため、近年では近代的修理手法となる「先端材料」と「伝統材料」の組合せが模索されるようになった。しかし、その伝統材料の一つとして建物の外装を覆う膠接着塗料にあっては環境の影響を受け易く、科学的視点から長期耐候性に関する基礎的な分析・評価が過去には行われていなかった。このため、本研究ではこの特性を明らかとし、当初材取替えを最小とする先端材料素材となる炭素繊維材などの導入促進に寄与するため、伝統塗料特性を把握する基礎的な研究を実施するものとした。 今回の研究では膠接着材を用いて調合される丹塗り塗料を基準とするものとし、その特性と耐久性を詳細に把握するため、「複合サイクル腐食試験」と「促進耐光試験」を実施した。複合サイクル腐食試験では、水分・塩分による塗装面劣化の比較検討を行ったが、限りなく実態のものに近付けるために、試験体は杉材と桧材の二種を製作し、これに伝統的な丹塗り塗装を施したものと、カゼイン・アクリル塗装を施した試験体を製作し、比較実験を行った。なお、試験方法はJIS K5600-7-9の「サイクルD」に準拠するものとした。一方、促進耐光試験では紫外線による検証を行ったが、試験体素材を桧材に統一した他は、複合サイクル腐食試験と同一の塗装仕様として、比較実験を行った。なお、試験方法はJIS K5600-7-9、JIS K5600-7-7の「サイクルA」に準拠するものとした。 研究成果として、劣化因子要素となる真水・塩水、そして紫外線については、建物が立地する外部環境での劣化因子複合作用が塗膜の劣化に影響することが明らかとなった。このため、この基礎資料などを基に、凡その劣化予測を立てることが重要だと考えられる。すなわち、それによって近代的な保存修理法を促進させる見通しが得られることになる。
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