ゴシック建築をロマネスク建築から区別する最も重要な特質が壁面構成要素の線条性の強さにあることから、この特質の獲得過程(線条化)がゴシック建築形成の主要な過程であると考えられる。本研究の目的は、(1)この過程を始動させたのはリブヴォールトの導入であり、(2)この過程はイール・ド・フランス地方だけでおこった、とする応募者の仮説を考古学的な遺構調査によって実証することにある。線条化とは、線条要素(シャフト)のプロファイルの丸さが明瞭になり、シャフトの壁面からの独立性が高くなる過程であることから、本研究では、11世紀末~12世紀初期のイール・ド・フランスとノルマンディーの教会堂の、リブヴォールトを架けた教会堂とそうでない教会堂のシャフトのプロファイルを比較することにより、仮説を実証する方法をとった。しかし、平成26年度の建物主要部(身廊)以外の調査で、仮説に整合しない事例が幾つかみられたため、方針を変更し、調査部位を身廊に限定したうえで、仮説を立証することとした。 平成29年度は、調査未実施であったゴネスの教会堂に加え、調査実施済の教会堂のうち重要なもの(パリ、ランス、リヨン、エブルーの各大聖堂、サン・ジェルメル、ボーヴェー、エタンプの各聖堂など)、ならびに関連する重要教会堂(リヨン大聖堂、ヌヴェール、サン・ネクテール、オルシヴァル、ブリウードの各聖堂、トゥールネ大聖堂など)の調査を実施した。 4年度に渡る調査により、研究目的を完全に達成することができた。これらの成果は日本建築学会論文集に3編の論文として逐次報告し、研究を完結させた。なおこの3編とこれ以前からの5編を合わせた8編の研究成果は、「ゴシック建築線条化のプロセスの解明」として平成29年度の日本建築学会賞を受賞した。平成29年度は、これらの成果を科研の成果物『ゴシック建築線条化の過程』と題する1冊の報告書としてまとめた。
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