研究実績の概要 |
本研究は、主として善通寺保管されている近世資料の調査分析を通じて、善通寺における近世伽藍の形成過程を明らかにしていくことを目的としているが、平成26年度の調査研究においては、善通寺宝物館に保管されている弘法大師900年御忌(享保19年)、同950年御忌(天明4年)、同一千年御忌(天保5年)関連の史料(善通寺文書5-2,5-3,5-4,6-1箱に整理されている数百点の史料)の調査を行い、伽藍整備に関する情報を読み取れる一部の資料について、撮影も行った。この結果、特に950年御忌の記録が充実しており、伽藍内諸堂舎の破損状況や修繕の見積の記録から、当時の伽藍の状況を詳細に読み取れることが判明した。また、修繕のみならず、御忌の儀礼に伴い実施された臨時の舗設である小屋掛の実態も、指図とともに発見することができ、大衆参詣の時代の伽藍の利用状況の一端を知る手がかりを得ることができた。 また、香川県教育委員会及び弥谷寺の協力を得て、善通寺末寺であった弥谷寺の文書調査も実施した。特に、善通寺が寛文9年に誕生院御影堂と弘法大師御影を火災で失ったため、かわりに弥谷寺の御影を譲り受けた経緯を記した資料を発見したが、この件は善通寺側の寺史には記載がなく把握できていなかったので、伽藍変遷を知るうえで重要な発見であった。。 このほか、香川県立図書館をはじめとする香川県内の図書館等において資料調査を実施した。なかでも香川県立ミュージアムでは、『讃州屏風浦五岳山善通寺略図』2点を確認し、このうちの一点の端書から、原図が天保9年以前の制作とわかり、江戸後期の善通寺伽藍の実態を示すものであることが確認できた。 以上のように、平成26年度の資料調査全体を通して、近世における善通寺伽藍の変遷を読み取るうえで必要な手がかりを得ることができた。
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