研究課題/領域番号 |
26420662
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 光浩 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (00510546)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子細線 / 電子顕微鏡 / 転位 / 結晶界面 |
研究実績の概要 |
低次元量子構造である量子細線や量子ドットは、バルクとは完全に異なる物性を示すことから古くから注目されてきた。我々はそのような量子細線を絶縁体などの結晶内部に形成させる。その媒体として、結晶の線欠陥、すなわち「転位」に着目する。転位は、結晶中の原子配列が不連続になった線欠陥であり、その周囲に生じる弾性ひずみ場においては、ひずみ緩和のためにしばしば溶質元素の偏析が起こる(コットレル効果)。また、弾性ひずみ場では、溶質元素の拡散速度が完全結晶領域と比べて速くなる(パイプ拡散)ことが知られている。このような転位特有の性質を利用して、添加元素を転位に沿って拡散させて転位芯近傍に偏析させることができれば、溶質元素を一次元的に配列した量子細線構造を創出することが期待される。絶縁体結晶内部に量子細線を形成させる媒体として、転位を提案した。 第一に、転位を一次元的に配列させる条件を最適化した。最適な転位導入法は、バイクリスタル法であった。実際に、酸化マグネシウム結晶をモデル材料として、小傾角粒界を作製した。この粒界を、汎用透過型電子顕微鏡や球面収差補正走査透過型電子顕微鏡を利用して、結晶粒界近傍に形成される構造を、低倍から原子レベルに至るまで観察した。 暗視野像では、傾角によるミスマッチを補正するため、格子転位がフランクの公式に従うように、周期的に粒界に配列していた。高角環状暗視野(HAADF)像による観察では、低倍観察では捉えられなかった転位芯の微細原子構造が明らかになった。同じ試料の同じ粒界面にあるにもかかわらず、転位芯は三種類の多形を所有していた。 粒界における規則的な超構造の自己組織化メカニズムを積極的に活用することで、量子細線の自己形成や大量導入が可能になるはずであり、物性の高性能化や機能創生だけでなく、量産面などのエンジニアリングの観点でも様々な応用につなげていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転位を一次元的に配列させる条件を最適化した。転位導入法は、(1)高温圧縮変形法、(2)バイクリスタル法、(3)配向薄膜粒界を予定していた。しかしながら、(1)高温圧縮変形法による転位導入は、困難を極めたため、中止した。現在、(2)のバイクリスタル法を用いて再現良く成功している。今後は、(3)配向薄膜粒界にも挑戦する。
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今後の研究の推進方策 |
成功しているバイクリスタル法を用いて、転位配列や転位芯構造を自在に制御する技術を確立させていきたい。さらに、転位を直立させるような方向で、約10μmまで機械研磨された後、イオンミリング処理によってさらに薄片化を行い、転位が貫通している状態で、試料表面に金属を蒸着する。Ar雰囲気下での熱処理で金属を転位に沿ってパイプ拡散させ、導電性量子細線を自己組織的に形成させることを試みる。 また、同時進行しながら、得られた三種類の転位芯構造について、第一原理計算に基づく、理論計算を行い、安定構造をシミュレーションする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は想定より実験がスムーズに進み、高価な高純度単結晶ブロックの購入を少なくできたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に主な経費として使用するものは、高純度単結晶ブロック、成果報告の旅費、論文投稿料、国際会議での成果報告のための渡航費などを計上させていただきたい。初年度に単結晶ブロック代をおさえることができたため、さらに他の材料でも挑戦する選択肢を広げることができると思われる。
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