研究課題/領域番号 |
26420663
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千星 聡 東北大学, 金属材料研究所, 特任准教授 (00364026)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 銅合金 / 時効 / 相安定性 / 組織評価 / 特性制御 / 熱処理プロセス / 抽出分離 / 表面改質 |
研究実績の概要 |
電気・電子製品の小型化や効率化のニーズに呼応するためには、電子部品、実装配線などを構成する銅合金の高強度化、高導電性化が重要である。このような背景から、最近では強度-導電率のバランスに優れた時効析出型銅合金が汎用されている。これらの合金の力学的・電気的特性は時効による組織変化に大きく影響を受ける。そのため、今後の合金開発を効率的かつ的確に進めていくためには、時効中での析出物の生成・成長挙動を詳細に把握することが必要である。本研究では、申請者らが見出した「抽出分離法」により各種の時効硬化型銅合金の析出挙動を定性的かつ定量的に把握していくことを目的とする。 平成26年度は、コネクタ用材料として研究・開発が最も盛んな時効析出型Cu-Ti系合金を中心に研究を進め、下記に示すような研究成果を得た。 1. 時効挙動の定量的評価:時効析出型Cu-Ti合金では時効初期に変調組織が形成され、次に粒内に微細な連続析出物(a-Cu4Ti)と粒界に粗大な不連続析出物(b-Cu4Ti)が形成されていく。本研究では、種々に時効条件を変化させた試料に対して、抽出分離を活用した。その結果、時効初期ではa-Cu4Tiが合金中に優勢に析出するがその体積分率は最大で1~2%程度であることが分かった。時効中期以降では、a-Cu4Tiが減少してb-Cu4Tiが発達する。b-Cu4Tiは最終的に体積分率18%で一定となる。また、本合金系での時効硬化には微細a-Cu4Tiが最も寄与することも確認できた。 2. TTT線図の作製:上記の組織変化を時効温度420~700℃で検証することにより、溶体化Cu-Ti合金の等温変態図(TTT線図)を作製した。この知見を活用し、材料特性を制御するための開発指針を検討し、更なる高性能化を目指した研究も進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Cu-Ti二元系合金ではスピノーダル分解、準安定相、安定相が継続的に生成、成長、消失するため、時効にともなう組織変化は非常に複雑である。一方で、本系は製造プロセスが材料特性に敏感に影響することが知られ「加工熱処理」や「多段時効」などの最適化にしのぎが削られている。今後、研究開発を効率よく進めていくためには、時効温度、時間などが析出挙動に与える影響を詳細に把握することが重要である。このため、平成26年度は抽出分離法を用いてCu-Ti系合金の時効析出挙動を系統的に調査することを基軸とした。具体的な研究内容は以下の通りであり、これは当初の研究計画通りである。 高周波溶解-均質化-圧延-切出し-溶体化の工程でCu-4mol% Ti合金を作製した。マッフル炉および塩浴炉にて420~700oCで0 s~平衡状態到達まで時効する。時効した試料の硬さ試験、引張試験、導電率測定を行った。また、X線回折、TEM観察も同時に行った。また、時効試料を抽出分離に供した。Cu-Ti合金では試料を7M硝酸溶液に浸漬すれば母相は完全に溶解し、析出物相は残渣として残る。これを濾過分離して濾液(母相)と残渣(析出物相)に分ける。濾液、残渣をICP発光分析して母相、析出相それぞれの組成を測定した。また、残渣をX線回折解析に供することにより析出物相の結晶構造を同定し、析出量も見積った。各析出物相の析出量を時効温度、時間の関数として集約して等温変態図(TTT線図)に整理した。これを基に速度論的解析も行った。以上の結果から組織学的データベースを構築した。 以上の成果を踏まえて、本合金系の表面改質についても取り組んだ点は当初の計画以上である。具体的には、中性子および電子線による照射損傷、プラズマ窒化法により表面硬化させ、本合金の機能性を高める試みも行った。
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今後の研究の推進方策 |
時効析出型Cu-Ni-Si系合金では非常に微細な析出物(Ni2Si)が生成し、時効条件次第では粒界から粗大な不連続析出物が形成する。微細析出物は強化への寄与が大きいため積極的に析出させたいが、粗大析出物は割れの起点となるため抑制したい。そのための熱処理プロセスの指針となるデータベースの構築が必要である。加えて、工業的には本系ではCo, Feなどを第四元素として添加するケースが多い。例えば、Co添加量に対して機械的特性は大きく変化すると報告されている。しかし、Co添加が析出物相の構造や組成にどのように影響を与えているかは従来のTEM観察、X線回折解析からは明確になっていない。 平成27年度以降は、平成26年度のCu-Ti合金の研究で培った抽出分離のノウハウをコルソン系(Cu-Ni-Si三元系)合金の組織解析に展開することを目指す。ここで、Cu-Ni-Si合金では、Cu-Ti合金の場合と同様に析出物相を残渣として抽出できることを確認している。よって、基本的に平成26年度でCu-Ti合金で実施した実験計画と同様のアプローチで研究を遂行できる。次に、Co, Feなどを添加したCu-Ni-Si系合金の組織解析を行う。ここでは、主に添加元素(Co, Fe)が析出挙動や材料特性へ及ぼす影響に関して調査する。得られた知見をもとに、Cu-Ni-Si合金に関する基本的な時効析出挙動を解明し、加えて、合金添加による特性改善のメカニズムを検討していく。 合金強度は析出物の構造、生成量、粒度、粒子間隔などに強く影響を受ける。また、導電率は母相、析出物それぞれの組成、体積分率が支配因子である。よって、以上で得られた知見を総括して合金組織と力学的・電気的特性の関係を明確化することも重要である。獲得した知見を基に加工熱処理や多段時効など実践的な製造工程による特性制御の可能範囲を見極めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね執行計画通りの執行であったが、消耗品など部分的に割引があったため、1万円程度の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(主に消耗品)として充てる。
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