研究課題/領域番号 |
26420665
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 康一 京都大学, 日本-エジプト連携教育研究ユニット, 特定准教授 (20314239)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電特性 / シミュレーション / 第一原理計算 / ナノワイヤ |
研究実績の概要 |
材料の熱電特性を原子レベルの構造を与えるだけで非経験的に評価するシミュレーション手法を確立し、新規高性能熱電変換素子の開発のための指針を与えることを目的に、その初期段階として平成26年度は下記の内容を実施した。 1. 第一原理電子状態計算とボルツマン輸送方程式を結びつけたゼーベック係数シミュレーション手法を創出し、プログラムコードの開発を行った。シミュレーション手法創出のために用いる系としてドープしたバルクSiおよびバルクSiCモデルを採用し、ボルツマン輸送方程式から導出される緩和時間のエネルギー依存の影響を中心に検討を進め、イオン化不純物散乱、音響・光学フォノン散乱、谷間散乱に関する緩和時間の考慮を含んだゼーベック係数の温度依存を出力するプログラムコードを完成させた。シミュレーション手法・結果の詳細は国内学会で発表した。 2. 新規ナノ構造熱電変換素子の候補としての半導体ナノワイヤモデルの創出、第一原理電子状態計算、およびゼーベック係数シミュレーションを開始した。これまでに研究代表者が創出したナノワイヤモデルに加え、新たにZnOナノワイヤについても検討した結果、ワイヤー壁の構造によって電気特性が著しく異なることを発見し、特異な熱電特性が得られることを期待してシミュレーションを進めている。詳細な電子状態は国際学会で発表したほか、関連する2報の論文を出版した(うち1報は印刷中)。 3. 有望な熱電変換材料であるBi-Sb合金モデルを創出し、本研究課題の研究費で導入した高速ワークステーションを使用して精密な第一原理電子状態計算を行った。Bi-Sb合金のモデル化はBiの三方晶結晶をベースにBi原子のうちの妥当な数をSb原子に置換することで表現し、フォノン分散はDFPT法または数値微分法によって計算して擬調和振動子近似に基づく有限温度での電子構造を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、平成26年度中に第一原理電子状態計算とボルツマン輸送方程式を結びつけたゼーベック係数シミュレーション手法を創出し、緩和時間の考慮を含んだゼーベック係数の温度依存を出力するプログラムコードを完成させた。フォノンの影響の加味についてのシミュレーション手法の検討もおおむね終了し、プログラムコードの改良は平成27年度前半に終えることができる見込みである。また、当初の予定に先んじて、新たな半導体ナノワイヤモデル(ZnO)の第一原理電子状態計算を終え、ゼーベック係数シミュレーションを進めている。総合的に見ておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に開発したゼーベック係数シミュレーション手法にフォノンの影響を加味して改良を加える。ドープ濃度の表現法を旧来の不純物添加による手法についても考慮して、比較的大型のバルクSiおよびバルクSiCモデルを採用したシミュレーションを行い、不純物添加によるフォノンの変化がゼーベック係数のシミュレーション結果に与える影響を議論する。 また、これまで創出した種々の半導体ナノワイヤモデル(Si, SiC, ZnO)についても引き続きゼーベック係数シミュレーションを進めて、得られた結果を取りまとめて成果の発表を行う。さらに、平成27年度中にMEMSデバイスの設計・解析用ソフトウェアを新たに導入して、p型ナノワイヤ材料とn型ナノワイヤ材料で構成されるナノ構造熱電変換素子を設計する。平成28年度にはゼーベック係数シミュレーション手法にMEMSデバイスの設計・解析用ソフトウェアの有限要素法も組み合わせて、素子全体の熱電特性を評価できるようにプログラムコードを発展させる。 Bi-Sb合金系については、引き続きモデルの第一原理電子状態計算を進めていくとともに、これらの計算で得られたデータを用いてゼーベック係数シミュレーション手法を実行する。Bi-Sb合金の熱電特性における組成比依存、ドープ濃度依存、温度依存を導出し、対応する実験結果と比較してシミュレーション手法の信頼性を議論し、平成27年度末までにBi-Sb合金に対する熱電特性評価を終え、得られた結果を取りまとめて成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費はほぼ当初の予定通りに使用したが、スケジュールの都合で海外での国際会議参加を1件キャンセルせざるを得なくなり、その外国旅費および学会参加登録費に充てる予定額が使用できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は当初の予定より海外での国際会議参加を1件増やし、生じた次年度使用額のうちの半分を外国旅費として、残りの半分を学会参加登録費・論文掲載料として、それぞれ平成27年度分として請求した額に上乗せして使用する。
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