材料の熱電特性を原子レベルの構造を与えるだけで非経験的に評価するシミュレーション手法を確立し、新規高性能熱電変換素子の開発のための指針を与えることを目的に、その最終段階として平成28年度は下記の内容を実施した。 1. 平成27年度までに開発・改良したシミュレーション手法をもとに、SiやSiCの半導体系およびBi-Sb合金系のナノワイヤモデルを用いたゼーベック係数シミュレーションを行い、とりわけ一次元化やワイヤ表面状態の変化に伴うキャリア状態密度の形状がゼーベック係数に与える影響を議論した。シミュレーション手法・結果の詳細は、3報の論文にまとめて出版した(うち2報は印刷中)ほか、国際学会・国内学会で発表した。 2. 無次元性能指数ZTを与えるための熱伝導性のフォノン拡散項を計算する第一原理プログラムコード開発を進めるとともに、Siを低次元化した際のフォノン伝搬の詳細を解析した(平成29年5月に国内学会で発表予定)。 3. エジプト日本科学技術大学のグループと平成27年度に開発したBi-Sb合金とグラフェンの複合材料モデルをもとに、新たにPb-Te-Cu/グラフェン系の新規熱電材料を開発し、1報の関連論文を出版した。 4. MEMSデバイスの設計・解析用ソフトウェアを新たに導入し、本研究でのシミュレーション結果を用いてp型Siナノワイヤとn型Siナノワイヤ材料で構成されるナノ構造熱電変換素子の最適化を行い、国内学会で発表した。 補助事業期間全体では、当初の目的である(1)第一原理電子状態計算に基づくゼーベック係数シミュレーション手法の創出、(2)Bi-Sb合金の電子状態計算と熱電特性評価シミュレーション、(3)ナノ構造熱電変換素子へ応用するための新規熱電変換材料の探査、のすべてが達成され、合計9報の論文出版、10件の国際学会発表、8件の国内学会発表を行った。
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