研究課題/領域番号 |
26420672
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
干川 康人 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (90527839)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 複合材料・物性 / ナノ材料 / セラミックス / 電子・電気材料 / 構造・機能材料 / 炭素材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、グラフェンを一、二層だけ被覆した無機ナノ粒子を原料とすることで、グラフェンシートが無機母材にナノレベルで複合化したバルク材料の開発を試みる。 本年度は炭素被覆した炭化タングステン(以下WC)ナノ粒子から炭素-WCナノ複合体を作製し、更に熱電素子としての応用を検討した。ポリアクリロニトリルとタングステン酸を窒素ガス雰囲気下1000 ℃で加熱することでナノ炭素膜が被覆されたWCナノ粒子(粒子径約20 nm)を作製した。また、900 ℃のメタンCVDにより炭素被覆した粒子径約200 nmのWCナノ粒子を調製した。これらの粒子サイズの異なる炭素被覆WCナノ粒子を用いて、それぞれ放電プラズマ焼結によって1000~1600 ℃、100 MPaの条件でバルク化し、得られた試料の導電性、ゼーベック係数を評価した。炭素被覆WCナノ粒子をバルク化した炭素-WCナノ複合体試料は、炭素被覆なしのWCナノ粒子から作製したバルク試料よりも導電性が上がり、更にゼーベック係数も増加する傾向が確認された。特に室温~300℃の範囲でゼーベック係数を比較すると、WC、粒子径200 nm炭素-WC、粒子径20 nm炭素-WCのゼーベック係数はそれぞれ-14~-15, -19~-23, -35~-40 μV/Kとなり、炭素被覆だけでなく、前駆体のWCナノ粒子サイズが小さくなることでゼーベック係数の値が大きくなることが分かった。粒子径20 nmの試料では、ゼーベック係数と導電率から計算される出力因子の値が最大で3.7×10-3 W/mK2まで達しており、ビスマス-テルル系に匹敵する熱電性能を有していることが分かった。 以上により、炭素被覆WCナノ粒子から炭素-WC複合体を作製することで、優れた性能を持つ熱電材料の開発に成功した。これは、粒子径の小さな炭素被覆WCナノ粒子をバルク化することで炭素膜が母材WCとナノレベルで複合化し、このようなナノ炭素膜がWCのゼーベック係数を増加させる大きな影響を与えたためと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度では、主に熱電材料の前駆体となる炭素被覆無機ナノ粒子の調製手法の確立を行った。本年度では、前年度で得られた知見に基づいて、熱電素子として用いる母材として炭化タングステン(WC)を選択し、炭素-WCナノ複合体を構築するための前駆体であるWC粒子に被覆する炭素膜の制御と、WCナノ粒子の粒径制御について研究を進めた。異なる炭素膜、ナノ粒子径を持つWCナノ粒子を用い、様々な放電プラズマ焼結条件でバルク化することでナノ構造制御を行い、その結果、ビスマス-テルル系の熱電材料に匹敵する出力因子を有する炭素-WCナノ複合体の創製に繋がった。これは、本研究テーマにおける当初の目的である「熱電材料のためのナノレベルで制御された炭素-無機ナノ複合体を構築」が達成されたことを意味している。炭化タングステンは、これまで熱電材料としては注目されていなかったが、本研究においてナノ炭素を複合化することで新規な熱電素子として応用できることを実証することができた。このような“母材原料のナノ粒子へのナノ炭素膜被覆化”による熱電性能の向上は、他の熱電材料にも有効な手法であると考えられる。つまり、既存の熱電半導体に適用することで更に性能を向上できるだけでなく、WCのようにこれまで熱電材料として注目されてこなかった物質にも応用できる可能性がある。 以上により、当初の研究実施計画以上に成果が得られたことから、本年度の達成度としては区分(1)と判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度では、本年度で得られた炭素-炭化タングステンナノ複合体の熱電材料の他に、炭素被覆無機ナノ粒子を用いた様々な応用を探索していく。以下に項目で列挙する。 (1)炭素-炭化タングステンナノ複合体の熱電性能の更なる向上:WCナノ粒子の粒子径の均一化やナノサイズ化を行い、適切な焼結条件を探ることで更なる熱電性能の向上を目指す。特に複合体のナノ構造観察を重点的に進める。加えて熱伝導率の測定を行うことで、熱電効率を示す性能指数を求め、熱電素子としての機能を明らかにする。 (2)炭素被覆アルミナ、シリカ、ジルコニアナノ粒子フィラー材料の開発:ナノ炭素膜を被覆することで無機ナノ粒子とポリマーとの親和性を増加させ、例えばゴム材料を強化するフィラー材料の開発を行う。特にポリマー-炭素膜界面の相互作用について詳しく調べ、炭素の表面化学性状がゴムマトリックスに与える影響について詳しく調査する。 (3)炭素被覆アルミナ、メソポーラスシリカを用いた多孔質モノリス電極の開発:アルミナナノ粒子やメソポーラスシリカをバルク化し、炭素被覆後に鋳型を除去するころで多孔質炭素モノリスを作製する。このような電極を用いたキャパシタ材料や燃料電池の電極材料の開発を行う。 以上の検討を進めることで、優れた機能性を有した新規炭素-無機ナノ複合体材料の創製を目指す。
|