研究課題/領域番号 |
26420673
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
北浦 守 山形大学, 理学部, 教授 (60300571)
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研究分担者 |
小笠原 一禎 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10283631)
黒澤 俊介 東北大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80613637)
渡邊 真太 関西学院大学, 理工学部, 研究員 (30554828) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シンチレーター / 赤外分光 / 結晶欠陥 / 二価金属イオン共添加 |
研究実績の概要 |
本年度は,以下に示す研究成果を得た。 (1)光誘起欠陥の存在を示す吸収バンドのピークが1.5eVに存在することを明らかにし、このバンドが温度上昇にともなって60K付近で弱められることを見出した。吸収バンドの温度依存性は熱発光の出現とよく一致しており、吸収バンドが確かにCe:GAGGにおけるシンチレーション特性を低下させる電子トラップと関係することを明らかにした。また,中赤外領域に観測される三価セリウムの4f-4f吸収バンドは紫外光照射によって3%程度減少することから,電子トラップの濃度を見積もった結果,1018cm-3程度であることがわかった。真性半導体と比べると欠陥濃度が高いのは明らかであり,まだまだ改善の余地があるといえる。 (2) 二価金属イオンの共添加によりシンチレーション特性が著しく改善することが近年報告されていたので、その特性改善の機構解明を念頭においてCe,Mg:GAGGにおいて光誘起欠陥による吸収スペクトルの測定を行った。Ce:GAGGで観測された光誘起吸収バンドは、Ce,Mg:GAGGでは観測されず、熱発光もまた観測されなかった。この事実から、Mgイオン共賦活には電子トラップの形成を抑制する効果があることを明らかにした。電子トラップの抑制は燐光成分の抑制に繋がるので、今回の成果はCe:GAGGシンチレーター高性能化への指導原理として価値がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の研究では、光誘起欠陥の存在を示す吸収バンドを近赤外領域に見出し、その起源が酸素空格子と関連することを明らかにできた。欠陥の細部についてはまだ検討の余地を残すが、これは本研究課題における重要な知見であり、その全容解明に迫る結果を得ることができた。また、その結晶欠陥を抑制するために二価金属イオンの共ドープが有効であることも明らかにすることができた。さらに、二価金属イオンの共ドープによってホストの基礎吸収端が低エネルギー側にシフトすることを見出し、結晶欠陥の抑制が伝導帯のエネルギー降下によることを明らかにすることができた。実際に、二価マグネシウムイオンを共ドープしたCe:GAGG結晶においてシンチレーション発光の時定数が著しく短くなることを確認することができた。二価金属イオン共ドープの有効性を電子論的な観点から検証できたことのみならず、その機構解明もほぼ達成出来たので、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
二価金属イオンの共ドープによってシンチレーション発光の発光時定数の改善にかかる機構解明は達成できたが、その出力低下を抑える方法の検討が課題としてまだ残されている。一般に、セリウム含有蛍光体では、セリウムイオンからの可視発光の消光過程が古くから研究されており、現在進行形ではあるが最近になってこの課題に対する結論が見出されつつある。セリウムイオンの第一励起状態(以降、5d1状態と呼ぶ)が可視発光の始状態なので、5d1状態と伝導帯のエネルギー差が小さい場合には高温において熱励起可能な状況が起こりうる。これは熱イオン化過程と呼ばれ、この過程が発光の温度消光に関係する。Ce:GAGG結晶では二価マグネシウムイオンの共ドープによって伝導帯のエネルギー降下が起こることを考慮すると、二価マグネシウムイオンの共ドープによるシンチレーション発光の低下は温度消光がより低温でおこるようになったためではないかと推測される。まずは、この事実を発光強度の温度変化を測定して検証する。この仮説が正しければ、熱イオン化過程を抑制するために、5d1状態と伝導帯とのエネルギー差を大きくするようにしなければならない。ドレンボス氏によって作られたガーネット結晶中三価セリウムイオンのエネルギー準位図を参考にすれば、Alリッチな組成にすることでこの問題を解決できる。これにより、改良型のCe:GAGG結晶を開発して市場に送り出すことができると思われる。一方、結晶欠陥の起源については、酸素空格子が関連することは分かったが、まだまだ完全な理解からは程遠い状況である。現時点では、酸素空格子とアンチサイトイオンのペアからなる複合欠陥が電子捕獲中心を形成すると考えているので、これを実験と計算から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を考えていた物品について、学内で措置されている別の経費で支弁できたため残金が生じてしまった。他物品費としての使用も考えたが、年度末につき入荷可能な確約もできないということで、使用不可能と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
残金については、次年度に物品費として消耗品の購入にあてることにする。
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