光触媒の研究は酸化チタンを中心とする不対電子を持たない金属酸化物の研究が主流であり,不対電子を持つ遷移金属酸化物を用いた研究は遅れている。酸化チタン等の従来の光触媒が非磁性体であったのに対して,不対電子を有する化合物は磁性体である。このことから,不対電子を持つ遷移金属酸化物は,磁性機能を付加した光触媒の特徴を持つ磁性光触媒となり得る。このため,私達は,不対電子を持ついくつかの鉄複合酸化物に可視光応答性を有する光触媒活性があることを明らかにしてきた。しかし,これら磁性光触媒に関する研究は非常に少なく,これらの鉄複合酸化物の光触媒活性や反応機構については未解明な部分が多い。 本研究では,主に二種類の結晶構造を有する鉄複合酸化物について光触媒の研究を行った。まず,精密合成を行い,その後,鉄のサイトを反磁性の元素で置換させた固溶体を精密合成した。これらの固溶体に関して,Rietveld解析により,固溶体の金属-酸素間距離,結合角を詳細に明らかにし,固溶に伴う結晶構造の変化の傾向を把握することができた。UV-VIS拡散反射スペクトル測定を行い,固溶量に伴う光学バンドギャップの変化の傾向を明らかにすることができた。また,XPS測定による価電子帯上端の準位の見積もりにも成功した。一つの系で光の吸収と遷移を関連付けることにも成功し,活性の波長依存性についてもある程度検討できた。さらに,合成法を工夫することで,光触媒活性の向上にも成功した。
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