研究課題/領域番号 |
26420681
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
堀部 陽一 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80360048)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ構造 / 透過型電子顕微鏡 / 電子回折 / 軌道整列 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「イオン拡散を伴う新しいタイプのd電子軌道秩序化現象の結晶学的・組織学的特徴を明らかにし、秩序化に伴い出現するナノ構造の精密制御法を確立する」ことである。本年度は、イオン拡散型軌道秩序化現象の初期過程に対応するチェッカーボード型ナノ構造形成過程の観察と、ナノ構造形成機構の解明を目的とした。まずイオン拡散型軌道秩序化現象を示すMn系スピネル遷移金属化合物(Co,Mn,Fe)3O4において、固相反応法を用いた多結晶試料の合成と、粉末X線回折法を用いた構造評価を行い、本研究で用いた全試料でのスピネル型構造の出現を確認した。その後、ナノ構造出現の条件について明らかにするため、Mn組成およびアニール時間を系統的に変化させた際のナノ構造変化について、透過型電子顕微鏡による明・暗視野法を用いた実空間の観察および電子回折図形を用いた逆空間の同時観察を行った。その結果、チェッカーボード型ナノ構造出現がMn組成の変化に敏感であり、Mn組成の僅かな増加に伴いチェッカーボード型ナノ構造が存在せず、代わりにラメラ状ナノ構造の出現が明らかとなった。これらラメラ状ナノ構造は、正方晶構造を有する高Mn領域および、立方晶構造を持つ高Fe領域(低Mn領域)より形成され、チェッカーボード型ナノ構造と同様、ナノスケールにおける相分離に起因するものであることが見いだされた。さらにチェッカーボード型ナノ構造およびラメラ状ナノ構造が出現する各々の組成の短時間アニール試料において、共にツイード状組織が観察された。これらの結果は、本系における局所歪の微妙なバランスが、チェッカーボード型ナノ構造の出現と密接に相関していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、イオン拡散型軌道秩序化現象を示すMn系スピネル遷移金属化合物(Co,Mn,Fe)3O4において、秩序化初期過程に対応するチェッカーボード型ナノ構造形成過程の直接観察とナノ構造形成機構の解明を目的とし研究を行った。Mn組成およびアニール時間を系統的に変化させた際のナノ構造変化の透過型電子顕微鏡観察から、Mn組成およびアニール時間に対するナノ構造変化の特徴について明らかにすることが出来た。特にMn組成の増加によるJahn-Teller活性イオン量の増加に伴い、チェッカーボード型ナノ構造ではなくラメラ状ナノ構造が安定して出現することが明らかとなった。一方、チェッカーボード型ナノ構造出現組成とラメラ状ナノ構造出現組成の短時間アニール試料においてツイード状組織が観察された。これはチェッカーボード型ナノ構造の実現には、内部歪場の微妙なバランスが重要であることを示唆している。以上の結果から、チェッカーボード型ナノ構造形成過程の観察と、ナノ構造形成に寄与する因子の解明が進んでいると考えられ、本研究はほぼ予定通りに進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、チェッカーボード型ナノ構造出現とツイード状組織との相関の存在が示唆された。この結果を元に、次年度以降の研究では、より細かくアニール時間を変化させた試料におけるチェッカーボード型ナノ構造形成過程の組織学的変化の詳細について系統的に調べる。また各過程において高角度散乱暗視野法と幾何学的位相解析により局所歪場の変化について明らかにする。さらに中時間アニール試料および長時間アニール試料を作製し、そのナノ構造変化について透過型電子顕微鏡による実空間・逆空間同時観察を行うことにより、チェッカーボード型ナノ構造の成長過程を系統的に調べる。同時に温度可変透過型電子顕微鏡観察により、昇温・冷却時のチェッカーボード型ナノ構造形成のその場観察を試みる。得られた結果を元に、軌道密度不均一性の発生・発達機構の詳細とナノ構造形成過程との相関について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初新規購入を予定していた卓上型高温管状炉ではなく、既存のマッフル炉を使用したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は当該マッフル炉の発熱体および断熱材交換を計画している。また、試料原料や坩堝等の試料作製消耗品の購入を予定している。さらに日本物理学会、日本金属学会、およびMRS学会等での研究成果の発表を考えている。
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備考 |
本年度研究成果を元に論文執筆中
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