研究実績の概要 |
本研究の目的は、「イオン拡散を伴う新しいタイプのd電子軌道秩序化現象の結晶学的・組織学的特徴を明らかにし、秩序化に伴い出現するナノ構造の精密制御法を確立する」ことである。本研究の初年度および次年度の研究結果から、本系に出現するチェッカーボード型ナノ構造は、一定温度での保持時間の増加に伴いある程度の大きさまで成長するものの、さらなる保持時間の増加によりラメラ状構造に急激に変化することが明らかとなった。最終年度は、前年度までのチェッカーボード型ナノ構造形成過程の詳細観察の結果から、軌道秩序化に関係したチェッカーボード型ナノ構造の形成因子の抽出を行うと共に、ナノ構造精密制御法の確立を目的として研究を行った。具体的には、イオン拡散型軌道秩序化現象を示すMn系スピネル遷移金属化合物ZnMnGaO4において、様々な温度および保持時間で熱処理を行った際のナノ構造変化について、透過型電子顕微鏡による明・暗視野法を用いた実空間の観察および電子回折図形を用いた逆空間の同時観察により調べた。またその結果と、これまでのMn系スピネル遷移金属化合物(Co,Mn,Fe)3O4との比較を行うことにより、本系におけるチェッカーボード型ナノ構造の形成には、酸素欠損の存在が大きな影響を及ぼすこと、また結晶粒サイズにより全く異なるナノ構造形成挙動を示すことが明らかとなった。このことから、チェッカーボード型ナノ構造の成長には、酸素欠損サイトに関係したイオン拡散速度および、結晶粒界の存在が重要な役割を果たすことが示唆された。
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