研究課題/領域番号 |
26420682
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
芦田 淳 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60231908)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 亜酸化銅 / 電気化学成長 / キャリア密度 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
目的とする太陽電池の光吸収層への応用を想定している亜酸化銅(Cu2O)薄膜を電気化学成長法により作製し,その正孔濃度の制御を試みた.Cu2Oにおけるp型キャリアの起源は銅欠損(VCu)であるとの報告がある.電気化学成長においては電解電流密度を大きくすることで原料供給律速が実現され,この際の原料供給は電解液バルク中と成長最表面近傍における原料物質の濃度差を駆動力とする拡散による.よってCu2O薄膜の銅および酸素の原料である電解液中のCu2+とOH-の濃度を変化させる事でそれぞれの供給速度を変化させ,VCuの生成量,すなわちキャリア密度を制御できると予測した.キャリア密度はC-V測定から求めたイオン化アクセプター(NA+)濃度により評価した. まず,OH-濃度一定の下でCu2+濃度を0.3 - 0.003mol/Lの範囲で変化させた.その結果,Cu2+濃度を減少させてもNA+濃度はほとんど増加しなかった.この原因は,Cu2+濃度減少に伴って電界電流が減少しており,成長速度が下がったことでCu2+不足の効果が相殺されたためと考えられる. 次に,OH-濃度を1X10-7~3X10-2 mol/L(電解液のpH:12.5-7.0)の範囲で変化させた.その結果1X10-7~3X10-4 mol/LではNA+濃度の変化はみられなかった.これはCu2+濃度を減少させた場合と同様に,OH-濃度が小さすぎたために成長速度が下がった事が原因と考えられる.一方OH-濃度3X10-4~3X10-2 mol/Lの範囲では,OH-濃度の増大に従ってNA+が2桁増加した.これは相対的にCu2+供給が不足した状態下で成長が進行した効果であると考えられる. 以上の結果は,電気化学成長Cu2O光吸収層の作製において,太陽電池の特性に大きく影響する正孔濃度を電解液組成のみによって制御できることを示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終目的は,p型の亜酸化銅(Cu2O)を光吸収層に,またn型の酸化亜鉛(ZnO)を窓層に用いたサブストレート型太陽電池を電気化学堆積法によって実現することにある.そのためには界面欠陥,とくにZnO層形成時のCu2O最表面の還元を回避する必要があり,その手段としてZn(OH)2を中間生成物とするプロセスの実現を目指す.しかしZnO成長における下地層となるCu2Oの電気伝導特性を一定に保ち得なければ酸化亜鉛の成長条件に影響し,結果としてCu2O還元の進行にも影響する,そのためまずCu2Oのキャリア密度を制御することを目指して上述の成果を得たが,そのために界面還元抑制に対する取り組みがやや遅れている.ただし今後実験を進める際に必要な基礎条件は整ったので,これをおろそかにして進めた場合に比べ,研究開発期間全体での進捗は大きなものとなると考える.
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今後の研究の推進方策 |
はじめに,ITOなどの電極上にZn(OH)2薄膜を作製する.その際の電解液のpHと電界電位は電位-pH図上で熱力学的に予想されるCu2Oの安定領域内の値とし,pHならびに電位(Cu2Oの場合は一方を決めれば他方はほぼ決まる関係にある)によって基板被覆率が最大となるようにする.100%被覆が実現できない場合は,通電量を増加させる.その上でZn(OH)2の加熱,脱水によってZnO層を得る際の加熱の温度と雰囲気を最適化する.このZnO層は,その後のZnO成長における電位とpHによって生じるCu2Oの還元を防ぐための最低限の厚さがあれば良い.従って,基板を完全被覆するために必要な最小限の厚さのZnOを得るのに必要な供給電荷量,加熱温度,加熱の際の雰囲気を決定する. 次に,平成26年度の成果に基づいて電気的特性を制御した電気化学成長Cu2O薄膜上にZn(OH)2を作製する.ZnO/Cu2O界面の状態は,暗中および疑似太陽光照射下のI-V特性によって評価する.もし接合界面でのCu2Oの還元が疑われる場合には,Zn(OH)2の析出量と脱水反応温度を再度検討する.良好なI-V特性の試料に対しては断面を透過型電子顕微鏡で観察し,Cu2Oの還元層,もしくは酸化層(CuO)の存在を評価する.以上により,界面還元層のないZnO/Cu2O接合を電気化学的手法によって実現する. 以上を実現した上で,Zn(OH)2から生成させた薄いZnOの上に,これまでに高品位ZnO薄膜を得ることに成功している条件で,窓層として必要な膜厚までZnOを成長させる.またAl添加による低抵抗ZnOを上部電極層として積層させ,安心安全安価な材料と手法によるZnO/Cu2O系太陽電池の光電変換効率向上を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では消耗品費を多く計上していましたが,他の予算(研究助成財団からの助成金)から消耗品費を支出することができました.そのため備品に使う額を大きくでき,今年度は太陽電池評価に必須の疑似太陽光源を導入しました.しかし当初予定していたソース/メジャー・ユニットは円安のため価格改定されて値段が上がったため,双方を購入することはできませんでした.よって本年度は,光照射下と暗中での特性の違いを定性的,予備的に評価するにとどまりました.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,本年度から次年度に繰り越す予算と次年度の交付額を合わせることでソース/メジャー・ユニットを購入でき,光源と組み合わせた定量的な接合特性評価を実施可能なシステムとして研究を遂行する予定です.
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