研究課題/領域番号 |
26420682
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
芦田 淳 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60231908)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化亜鉛 / 亜酸化銅 / 電気化学成長 / 結晶核 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
電気化学成長太陽電池のn型窓層として酸化亜鉛(ZnO)薄膜の作製を行った.電解液は硝酸亜鉛水溶液,成長温度は65°Cである.光学特性を評価する目的で,ZnO成長の際に酸化や還元が生じにくくかつZnOよりも光学吸収端が短波長域にある錫ドープ酸化インジウム薄膜を基板に用いた.一方でより安価なサブストレート型太陽電池構造では,亜酸化銅(Cu2O)層(p型吸収層)の上にn型ZnO窓層を製膜する必要があるが,電気化学法ではZnO成長の際に下地のCu2Oが還元されて金属Cu層が生成されてしまう.本研究ではこれを回避するためにZnOの電気化学成長における中間生成物と考えられる水酸化亜鉛(Zn(OH)2)層をまず形成し,脱水反応を経てZnOを形成することを提案している.今回,ZnOの電気化学成長の初期過程をより詳細に知るために従来よりも広い範囲で電解電流密度を設定して電気化学成長を試みた.その結果,100μA/cm2以下ではZn(OH)2を経由したZnOの形成が示唆される結果を得た.一方350μA/cm2を越える電流密度では,製膜開始直後に陰極電位が-1.0V(対Ag/AgCl)以下となる.これは電気二重層形成のための電位変化と考えられるが,亜鉛-水系平衡状態下では金属亜鉛(Zn)が安定な領域である.1700μA/cm2以下では,その後数十秒かけて電位が上昇しZn(OH)2安定領域に至る.一方で1800μA/cm2以上では,電解電位はやや上昇するものの常に-1.0V以下である.いずれの電解電流密度においても析出物はZnO単相であったが,350-1800μA/cm2で作製した試料が高い結晶性を示しかつ透過率も70-90%と高い.これらの結果は,Zn(OH)2を核とする成長過程の他に,初期にZnが生成しそれを核として成長する成長過程の存在を示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度は,スーパーストレート型太陽電池の下地層となるp型Cu2O薄膜の電気化学成長と,電解液pHならびに電解電位によるイオン化アクセプター濃度の制御手法を確立した.平成27年度はこの上にZn(OH)2を製膜し,脱水反応を経てZnOを得ることでCu2Oを還元することなく積層を形成する予定であった.しかし本年度ZnO成長初期過程をより広い成長条件で検証したところ,成長初期の電気二重形成後数十秒の間,金属Znが析出する領域に電位があることを見いだした.即ち成長条件によっては,過去に確認したZn(OH)2ではなくZnが生成し,結晶成長開始点になっている可能性がある.従ってCu2Oの還元によるCuの生成を防ぐことが出来たとしても,今度は界面に生成するZnが太陽電池特性を阻害する.しかもこのZnの析出を伴う条件では成長速度が大きく,電気化学成長法による太陽電池の量産により適したものである.現在,当初の予定にはなかった成長初期のZnの存在の検証と,その詳細な成長条件について確認実験を行っている.そのため,電気化学成長によるZnO/Cu2O積層構造の作製にはまだ着手出来ていない.
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今後の研究の推進方策 |
本課題では,過去に確認したZn(OH)2を初期核とする酸化亜鉛の成長手法を用いて下地のCu2Oの還元を防ぐことを目指していたが,今回応用上重要な高速製膜が可能な条件では成長初期にごく微量ではあるが金属Znが析出している可能性を示唆する結果を得た.この場合,仮にCu2O層の還元による金属Cuの生成を防いだとしてもZnが界面に介在することとなり,太陽電池特性を大きく阻害することが容易に予想される.この問題を回避するために,現在以下のようなCu2O上のZnO成長手法を検討している.①成長速度は極めて遅いもののCu2O層の還元による金属Cuの生成を回避出来ることから,成長開始時はZn(OH)2を中間生成物とする手法でZnO層の成長を行う.②その後,連続的に電解電位を大きくして電流密度を増し,量産にかなう成長速度を確保して積層構造を作製する.電解電位を連続的に大きくするのは,もしステップ状に電解電位を大きくするとZnO成長途中にZnの析出が懸念されるためである.本年度はこのような「成長速度傾斜」電気化学成長によって,界面に金属相が存在しないCu2O上ZnO積層構造を実現し,その電気的光学的特性向上への寄与を検証することで,安心安価な太陽電池の低エネルギー製造法を確立することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行途中で予期しない現象(水酸化亜鉛ではなく金属亜鉛が成長初期に生成していること)を示唆する現象を確認したため,その検証に時間を要し,太陽電池用積層構造の形成が遅れました.そのため,素子特性評価の精度を上げるためのソフトウェアー棟の購入を見送った結果,次年度使用額が生じました.
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次年度使用額の使用計画 |
水酸化亜鉛を中間生成物とする従来の方針を一部修正することで目的を達成できる見込みとなったので,予定していた物品を平成28年度の早い時期に導入します.また平成28年度は最終年度で有り,これまでの成果を積極的に国際会議等(うち,アブストラクト投稿中1件)で公表していく予定であるため,旅費およびその他経費(会議参加費)の執行も多くなる予定です.
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