研究課題/領域番号 |
26420690
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
打越 哲郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料プロセスユニット, グループリーダー (90354216)
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研究分担者 |
石垣 隆正 法政大学, 生命科学部, 教授 (40343842)
鈴木 達 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料プロセスユニット, 主席研究員 (50267407)
辻本 吉廣 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料プロセスユニット, 主任研究員 (50584075)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ランタンシリケート / 酸化物イオン伝導体 / 結晶配向 / コロイドプロセス / SOFC |
研究実績の概要 |
ランタンシリケートは、酸化物イオン伝導度に結晶方位異方性があり、c軸方向に高い伝導性を示すことが最近の研究で示されている。本研究では、組成の制御されたランタンシリケート単相粉末の大量合成方法の確立、強磁場コロイドプロセス法を用いたc軸高配向多結晶バルク焼結体の作製と特性評価、さらに、配向ランタンシリケートを電解質としたSOFCの発電特性評価を行い、電解質のc軸配向化がSOFCセルの高出力化に及ぼす有効性について検証することを目的とする。 H28年度は、強磁場スリップキャスト法により高配向な緻密成形体を得るためのスラリー調製条件を最適化し、焼成処理により優先配向方位の制御されたバルク体を作製して、配向度と配向組織を評価した。ポリカルボン酸アンモニウムを分散剤に用いた水系スラリーに湿式ボールミル処理を行い、作製したスラリーを重力方向に12Tの強磁場を印加しながら鋳込み成形法により固化した。成形体を大気中で乾燥した後、600℃,1hの脱バインダー過程を経て、最終的に1600℃,10hで焼成することで、配向した緻密焼結体が得られた。原料粉末、無磁場固化焼成体および強磁場固化焼成体のXRDパターンの比較から、固化成形時に12Tの強磁場を印加した試料では、磁場に垂直な面では(002)面と(004)面のピークが強く現れ、平行な面ではc軸に平行な面のピークが強く観察された。この結果は、ランタンシリケートの磁化容易軸がc軸であり、強磁場中で固化した成形体を焼成すると高配向なLSOのc軸配向バルク体が作製できることを示している。焼結体組織のSEM観察からa, b軸方向に扁平な粒子形状が観察され、焼結過程における粒成長にも異方性があることが示された。電気伝導度の測定から、すでに単結晶体で報告されている結果と同様に、本実験で作製された配向多結晶体においても顕著な異方性が認められ、配向体c軸平行方向>無配向体>配向体c軸垂直方向の順に伝導度は高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究で、La源としてLa(OH)3粉を用い、La(OH)3とSiO2粉末を、静電吸着を利用した液中ヘテロ凝集法を用いて十分かつ均一に混合することで、組成ずれの無いランタンシリケート単相の粉末を多量に合成できることを示した。今年度の研究では、La9.33(SiO4)6O2組成の粉末を用いて、強磁場鋳込み成形法による配向バルク体作製と電気伝導度異方性の評価を行った。その結果、コロイドプロセスの手法を用いることにより、通常の粉末プレス法の場合よりも低温の焼成温度で、より緻密な高配向多結晶バルク体の作製が可能であることを示すことができた。また、配向多結晶体は、c軸方向に高い電気伝導度を示すことも実証できた。このことは、安価な粉末を出発原料として用いながら、結晶粒をc軸方向に配向させることにより、単結晶に準じた高電気伝導性が得られることを実証している。また、ランタンシリケートのc軸が磁化容易軸であることも、静磁場を用いた磁場配向が可能であることを示しており、プロセス上非常に有利であるといえる。これらの結果は、SOFCの電解質材料としてのランタンシリケート配向体の実用化に一歩近づける結果となっている。しかし、力学特性評価ついては、特性評価用の試料の調製の遅れから、本年度中に検討を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
強磁場コロイドプロセスの利点を生かして作製した高配向かつサイズの大きな配向多結晶体バルク体から、種々の測定に必要なサイズ角に試料の切り出しを行う。電気特性については、交流二端子法により評価する。測定は異なる結晶配向方位について行う。また、力学特性のうち、燃料電池セルの構築に必要な熱膨張係数の測定をディラトメーターで、材料のマクロ的な強度および靱性については3点もしくは4点曲げ試験により行う。また、結晶面による硬さ評価をナノインデンテーション試験により行なう。以上の測定については、比較のために、無配向体についても行う。 実際のSOFCセル作製においては、ランタンシリケート電解質と組み合わせるカソードおよびアノード電極材料の選択も重要であり、ランタンシリケートと電極材料との反応性を調査して、有効な電極材料を決定する。また、電解質の厚さを薄く作製できる電極支持型セルは、回路全体のインピーダンス低下に有効と考えられる。そこで、ランタンシリケート粉の電気泳動堆積挙動と得られた膜の焼結性について調査する。最終的には、ランタンシリケート配向体を電解質とするSOFCセルを構築して、発電特性に及ぼす有効性を総合的に考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった試薬および理化学用品を、運営費交付金予算で支出することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主として、試薬、理化学用品等の研究消耗品の購入に充当する。また、国内および国際会議の参加費および旅費の支出にも使用する。
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