平成28年度は、Mgイオン二次電池用電極材料となり得るMgFePO4FおよびMgMnPO4Fの第一原理計算を行い、バンドギャップ、欠陥構造、セル電位などの電池特性を評価した。また、Mgイオン固体電解質の結晶構造および電気特性の理論計算も実施した。近年報告されている高い伝導率をもつLiイオン・Naイオン伝導体はリン酸塩の材料系であるため、同様な結晶構造をもつMgリン酸化合物に注目した。Mgイオン電解質である擬NASICON型Mg0.5Zr2(PO4)3(MZP)の結晶構造は近年の実験で明らかにされたが、原子レベルでのMgイオン拡散機構やイオン拡散係数の詳細はまだわかっていない。本研究では結晶構造と伝導パス・伝導率の関係を明らかにするため、古典分子動力学(古典MD)計算、および第一原理分子動力学(FPMD)計算を行った。7000個の原子を含むセル(4x5x5スーパーセル)を用いた古典MD計算により、実験で示唆されているパスとは異なるMgイオン伝導パスがあることが明らかになった。280個の原子を含むセル(1x2x2スーパーセル)を用いたFPMDでも古典MDと同様な結果が得られ、新たな伝導パスの妥当性が確認できた。MZPのMgイオン伝導率はNASICON型Naイオン伝導体の伝導率より低いことがわかったが、本計算結果の詳細な解析により、Mgイオン伝導性を向上するための指針が得られた。更に今まで合成されてない化合物のMgイオン伝導性についても、理論計算を用いて検討を行った。Mgイオン伝導体のMgイオン拡散に関する情報は少ないため、本研究の成果は、優れたMgイオン伝導体の材料設計にとって、重要なマイルストーンとなると考えられる。
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