研究課題/領域番号 |
26420709
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
小林 重昭 足利工業大学, 工学部, 准教授 (00323931)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 粒界工学 / 粒界腐食 / フラクタル / ステンレス鋼 / アルミニウム合金 / ニッケル基合金 |
研究実績の概要 |
多結晶金属材料において生じる粒界腐食および粒界偏析のような粒界劣化現象は、高エネルギー粒界であるランダム粒界を優先経路として伝播するパーコレーション現象である。多結晶材料の構成要素である結晶粒界(以下、粒界)の設計・制御によるバルク材料の諸特性の向上に関する研究は、粒界工学として国内外で研究が進められてきた。従来の粒界工学では、粒界性格分布(異なる性格をもつ粒界の存在頻度)を評価・制御因子として用いてきたが、パーコレーション現象である粒界劣化現象の抑制に対しては、経路となるランダム粒界の連結性を制御することが、より効果的であると考えられる。 平成27年度は、積層欠陥エネルギーの低い面心立方金属材料であるSUS304、SUS316Lステンレス鋼およびインコネル600ニッケル基超合金に対し、ランダム粒界連結性のフラクタル次元制御による粒界劣化現象、とくに粒界腐食および粒界応力腐食割れ抑制の有効性の検証を、前年度に続いてより系統的に進めた。その結果、ランダム粒界連結性のフラクタル次元は、粒界劣化現象の経路長さの指標となることを実験的に明らかにし、対応粒界(またはランダム粒界)の存在頻度と結晶粒径分布の変動係数の影響を強く受ける因子であることを示した。さらに、対応粒界の存在頻度がほぼ同じ試料であっても、ランダム粒界連結性のフラクタル次元を低下させる粒界制御により粒界劣化現象の抑制が可能であることを明らかにした。 さらに、積層欠陥エネルギーの高い面心立方金属材料の2017アルミニウム合金と体心立方金属のSUS430フェライト系ステンレス鋼について、一般的な加工熱処理による粒界制御プロセスを検討した。両材料において、局所的な集合組織の発達により低角粒界を高頻度に導入できる可能性が示された。また、それら2種類の材料のランダム粒界連結性もフラクタルによって定量化できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低積層欠陥エネルギーのSUS304、SUS316Lおよびインコネル600について、ランダム粒界が相互に連結することにより作られるネットワーク(ランダム粒界連結性)の経路長さとそのフラクタル次元との間に明確な相互関係があることを見出し、フラクタル次元により粒界劣化現象の経路の長さを評価可能であることを示した。対応粒界の存在頻度がほぼ同じ場合でも、結晶粒径分布の変動係数を小さくする組織制御により、ランダム粒界連結性のフラクタル次元を低下させ得ることも明らかにした。ランダム粒界連結性のフラクタル次元を低下させることにより、対応粒界の存在頻度が同程度の場合でも、粒界劣化現象が抑制できることを初めて明らかにした。本研究において導入した粒界連結性のフラクタル解析に基づく新しい粒界制御手法は、従来の粒界工学的手法に比べ、積層欠陥エネルギーの低い面心立方金属材料の粒界劣化現象の抑制をより精密に行えることを明らかにした。 高積層欠陥エネルギーの2017合金とSUS430の粒界連結性制御プロセスについても検討した。両材料ともに、高圧下率の冷間圧延とその後の再結晶熱処理により、局所的な集合組織が発達した。局所的な集合組織の面積率を高めるほど、粒界劣化現象に対して高い抵抗を示す低角粒界を高頻度に導入できる可能性を示した。これらの材料のランダム粒界連結性もフラクタルであることを明らかにし、その次元を評価することができた。今後、積層欠陥エネルギーの高い材料におけるランダム粒界連結性のフラクタル次元をさらに低下させるための粒界制御プロセスを検討する必要がある。 積層欠陥エネルギーの高い材料の粒界連結性制御に関しては、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容から、わずかに遅れている部分もあるが、計画よりも進められた部分もあることから概ね順調に進んでいるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容に沿って研究を推進する。平成27年度に引続き、高積層欠陥エネルギーの2017アルミニウム合金およびSUS430フェライト系ステンレス鋼に対して、ランダム粒界の作る最大のネットワーク(最大ランダム粒界連結性)のフラクタル次元を低下させるための加工熱処理プロセスの基本指針を模索する。集合組織の形成プロセスに関する研究の文献調査に基づき、両材料の集合組織制御プロセスを再検討する。2017合金については、第2相粒子の粒界析出が粒界性格に依存することから、析出物によってランダム粒界の移動をピン止めし、対応粒界の存在頻度を増加させる結晶粒成長のプロセスも検討する。 フェライト系ステンレス鋼に関しては、成形性の指標となるランクフォード値(γ値)の高い材料ほど強い{111}集合組織が得られることから、SUS430の炭素量を減らした高γ値をもつ鋼種SUS430LXを比較材とし、集合組織形成との関連に基づいてランダム粒界連結性の制御方法を検討する。集合組織の種類と配向度に依存した高頻度の低角粒界と対応粒界の導入を試みる。 これまでに低積層欠陥エネルギー材料に対して得られた結果と合わせ、多結晶材料におけるフラクタルを用いたランダム粒界連結性の定量化方法の一般性を明らかにする。 前年度までの低積層欠陥エネルギー材料に対する研究と同様に、2017合金およびSUS430についても、粒界腐食と粒界応力腐食割れに及ぼすランダム粒界連結性のフラクタル次元の影響を調べ、本手法による粒界劣化現象抑制の有効性を検証する。なお、SUS430は、応力腐食割れに対する抵抗が高いため、粒界腐食試験のみを行う。 以上の得られた知見に基づき、粒界連結性のフラクタル解析とその制御に基づく新しい粒界工学による多結晶材料の粒界劣化現象抑制に関する成果をまとめ、公表する。
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