研究課題/領域番号 |
26420712
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
苅谷 義治 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (60354130)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 銀ナノ粒子 / 焼結接合 / クリープ / 電子実装 / 疲労 |
研究実績の概要 |
本年度はAgナノ粒子を用いて接合されたパワーモジュールの疲労寿命予測手法の確立を目的とした.パワーモジュール構造では,疲労き裂進展が放熱劣化と密接な関係があるため,疲労き裂進展寿命を予測する手法とした.本研究では,まず,機械疲労試験にて取得した疲労き裂進展挙動から非弾性ひずみエネルギー密度を用いた疲労き裂発生則および疲労き裂進展則を導出する.これら疲労寿命則とFEMにより得られた非弾性ひずみエネルギー密度から任意のき裂長さまでの疲労サイクル数を算出する方法を検討した.このため,本年度は,材料構成則を導出する実験として,Ag焼結体用に設計された微小試験片を用いた引張試験および応力緩和試験,およびAg焼結体用に設計された微小試験片を用いた疲労き裂進展試験を実施し,弾塑性クリープ構成式の導出および疲労き裂発生則および疲労き裂進展則の導出を行った. Agナノ粒子焼結体の応力-ひずみ曲線は,バルク純金属に比較して弾性域が不明瞭であり,変形開始から非線形の挙動となる.また,クリープの見かけの活性化エネルギーはいずれの試料においても92kJ/mol程度であり,バルクAgの格子拡散の1/2程度となる.これは,焼結界面の構造が低温クリープの発現機構に関与していると考えられる. Agナノ粒子焼結体の疲労き裂発生寿命および疲労き裂進展速度は非弾性ひずみエネルギー密度を用いたべき乗則で記述できることがわかった.疲労き裂進展速度はひずみ速度の依存性は見られなかったが,試験温度の上昇に伴い速度が増加することがわかった.これら二つの疲労寿命則を用いた全寿命予測式により,試験片形状におけるAgナノ粒子焼結体の任意のき裂長さに至る疲労寿命を予測することが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定した有限要素解析用の状態方程式(弾塑性クリープ構成式)および疲労き裂進展則を構築するための,実験を予定どおり終了した.特に,疲労き裂進展実験は,マイクロサイズの試験片を用いた破壊力学試験という実験上の困難さから,これまで実施した例は皆無で,世界初の貴重な計測データである.また,Agナノ粒子焼結体における弾塑性クリープ特性の特徴や疲労き裂進展則の特徴を考察し,バルク金属との違いを明確に,今後の信頼性設計に反映できる知見を得ている.疲労寿命予測では3次元構造における検討が今後の課題であるが,研究全体としては,計画どおり概ね順調に進んでいると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度導出した疲労寿命予測手法を用いて3次元で再現したモジュール構造における疲労き裂進展解析を検討実施し,また,実際にパワーサイクルを負荷した場合のき裂進展実験の結果と解析結果を比較することにより,寿命予測精度の確認を行い,問題点を抽出する.特に,3次元構造におけるき裂進展解析の手法に注力し,精度の高い寿命予測解析手法の確立を目指す.また,焼結条件と疲労寿命則の関係について今年度確立した疲労き裂進展実験を用いて明らかにし,より信頼度の高い材料設計の指針を得ることも目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
疲労き裂進展試験が困難であり,また試験時間が非常に長く,すべての実験が終了していない.このため,疲労き裂進展試験にかかわる消耗品の支出が予定どおり進まなかったのと,試験後の組織観察が残っており,この消耗品類の支出が少ないのが理由である.疲労き裂進展試験方法を本年度確立したので,次年度は順調に試験を実施できる予定であるため,次年度,すべて使用予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
マイクロ疲労き裂進展試験の消耗品(セラミックスヒーター,マイクロノッチ作成用タングステンワイヤー,試験片表面の鏡面仕上げ用研磨消耗品)と試験後の組織観察用精密研磨用消耗品に使用する予定である・
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