本年度は,無加圧焼結したAg焼結体のクリープ変形機構の検討と疲労き裂進展試験を実施した.まず,クリープ変形機構では,クリープ変形機構図を推定し,Ag焼結体特有のクリープ変形について考察を行った.結晶粒径が300nm程度となるAg焼結体では粒内クリープの領域が存在せず,粒界拡散による粒界すべり型のクリープが主たる変形機構となることを明らかにした.ただし,焼結体の内部構造は複雑であり,多数の孔の存在により内部で高い応力が発生する箇所が多く存在し,計測されるクリープは焼結で形成される低品質な粒界における粒界拡散に律速するクリープに加え,高応力で観察される非拡散のクリープが混在することがわかった.このAg焼結体のクリープを制御するには,焼結で形成される粒界の品質を向上させることが必要で,焼結温度や圧力が重要なパラメータとなることを明らかにした.次に,疲労き裂進展特性では,微小試験片を用いた独自の疲労き裂進展試験により,無加圧焼結したAg焼結体の疲労き裂進展速度はバルク金属に比較して極めて速く,脆性的な性質を示すことを明らかにした.この脆性的な性質は焼結で形成される粒界の性質と密接に関連し,クリープの変形機構と密接に関連することがわかった.疲労を含む力学的な信頼性を向上させるためには焼結で形成される粒界の品質を向上させる必要があり,このためには焼結温度を200℃以上とする必要があることがわかった.さらに,このAg焼結接合をパワーデバイスに適用した際の疲労寿命予測手法を検討し,疲労き裂進展試験から得た非弾性ひずみエネルギー密度をパラメータとするき裂進展則を用いることで,実用的な精度でパワーデバイスの寿命予測が可能となることを明らかにした.
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