機能性酸化物の大気圧下での低温製膜プロセスの実現に向けて期待されている塗布光照射法では、紫外のエキシマパルスレーザーを照射した時の光結晶成長機構の解明が重要である。しかしながら、パルスレーザー照射時のナノ秒オーダーでの温度変化を高速測定する技術が確立されていなかったことから、その光-熱反応の定量的な評価が困難であった。そこで、本研究では、低温ほど信号強度が増大する燐光現象に着目し、高速測定で定評のある放射測温と組み合わせることにより、塗布光照射法下における紫外パルスレーザー照射時の温度場の定量的理解を目指した。スズ酸化物の光結晶化過程において、パルスレーザー照射時の最高到達温度がレーザー照射数とともに大きく変化することを見出した。興味深いのは、レーザー照射数初期過程においては、レーザーフルエンスに最高到達温度が強く依存するのに対し、後半の結晶化が進んだ過程では、基材の材質に強く依存することであった。本結果は、結晶化プロセスが、皮膜の緻密化する初期過程と、結晶化がおきていく後半の過程に分けられることを示唆している。一方で、ユーロピウムをドープしたイットリウム酸化物を用いることで、レーザーを照射した時の燐光を測定し、その燐光の減衰曲線から、プロセス温度を見積もったところ、1000 K程度の温度場であることが推定された。絶対値の精度については今後も検討が必要であるが、放射温度測定では困難であった低温場での温度測定の可能性を見出すことができたことは重要な進歩である。
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