最終年度になり、高圧合成されたMg2Si熱電材料の物性を調べるとともに、実用化の可能性について検討を行った。これまでの課題であった出発原料の未反応物を減らすためには複数回の焼結が効果的であることが分かっている。そこで焼結の総時間数が同じ12時間であっても、12時間の一次焼結、6時間を2回行う二次焼結、4時間を3回行う三次焼結により試料を合成し、X線回折実験により反応の状態を比較した。焼結回数を増やすことで未反応物が明らかとなったが、それと同時に合成時間が長くなるためにシリコン及びマグネシウムの酸化物も合成されてしまう。残念ながら当研究室には真空のホットプレスが無いので追実験は出来なかったが、複数回の焼結を真空中で実施することで良質のMg2Si熱電材料が合成できると考えられる。また、焼結回数を増やすことで合成物の密度も上昇し、それとともにゼーベック係数の値も標準試料と同等の値を示すようになったが、必要以上に焼結行うと酸化物が増えてゼーベック係数の絶対値も減少することが分かった。 一方、水素化マグネシウムを出発原料としたMg2Si熱電材料の合成実験では、MgH2が空気中で安定なため微粉末試料を準備することが可能で、シリコンと同等の微粉末を使用することで、合成時間を飛躍的に激減させることが可能になった。また、合成中に水素が放出されるため還元雰囲気での合成が可能となり、出発原料の酸化抑制にもある程度の効果が見られた。また、水素と吸着酸素が反応することで生じる水が、試料合成後抜けていくことで、試料内に細かい空洞ができ、それによって合成物の熱伝導率は標準試料のおよそ半分に減少することが確認された。ゼーベック係数や電気伝導率は標準試料よりも劣ったため、Z値は0.05程度にしかならなかったが、熱伝導率の減少の効果を活用することで今後さらなる発展も期待できる。
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