研究課題/領域番号 |
26420733
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
江村 聡 独立行政法人物質・材料研究機構, 元素戦略材料センター, 主任研究員 (00354184)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ベータ型チタン合金 / 偏析 / ヘテロ構造 / 靭性 / オメガ相 / 変形モード |
研究実績の概要 |
本研究はベータ型Ti-Mo 系合金をメインターゲットとし、Mo の元素偏析を逆に利用して非常に微細かつ複雑な渦状ハイブリッド組織(Van Gogh’s Sky (VGS)組織)の作り込みを行い、Ti-Mo 系合金の靭性に及ぼすVGS 組織の影響を把握し、靭性向上の可能性を見極めるとともに靭性の発現機構の解明を目指すものである。 本年度は主に以下のような成果が得られた。 (1) Ti-12Mo(mass%)合金中のMoの偏析が材料の機械的性質や変形挙動・変形組織に及ぼす影響の基礎的な理解を目的に、板圧延によって製造した、Moが層状に偏析した材料から板状引張試験片を作成し、引張変形後の組織観察等を行った。Mo濃度の異なる領域で双晶による変形から変態誘起塑性(マルテンサイト変態)による変形へと連続的に変化する様子が走査型電子顕微鏡(SEM)における組成像(BEI)や方位像(OIM)によって観察され、Mo偏析による変形制御の可能性が示唆された。 (2) Ti-12Mo合金中のMoの偏析によるVGS組織がシャルピー衝撃吸収エネルギーに及ぼす影響を調査した。250℃で時効処理を行いVGS組織に沿ってオメガ相(硬質第二相)をヘテロ析出させた材料と、偏析がなくオメガ相が均一に析出した材料との比較では、室温での試験ではシャルピー衝撃吸収エネルギーに大きな差がなかったのに対し、200℃ではVGS組織の衝撃吸収エネルギーが大きく増加し、VGS組織による靭性向上の可能性が示唆された。本材料では室温での引張試験においてVGS組織による延性の向上が確認されており、今後延性向上の発現温度とシャルピー衝撃吸収エネルギー向上の発現温度との違いについてくわしく考察していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
200℃というやや高い温度ではあるが、VGS組織によるシャルピー衝撃吸収エネルギーの向上が確認できたことは、研究の方向性が正しいことを示している。今後静的破壊靭性試験や引張速度を変えた引張試験を行い、今回の結果と照らし合わせることで靭性におよぼす偏析組織の影響をよりよく理解できると考えられる。また層状偏析を有する板材について検討することで、変形様式に及ぼす偏析組織の影響の基礎的な理解が得られることを示した点も本年度の成果である。以上の通り、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、研究実施計画に沿ってシャルピー衝撃試験、平面ひずみ破壊靭性試験、引張速度を変えた引張試験等を行い、VGS組織の靭性に及ぼす影響をよりくわしく調べる。特に、シャルピー衝撃吸収エネルギーに大きな影響がでた200℃での引張試験等を行い、靭性向上の原因の検討や引張試験等他の試験との比較を行い、特性向上の指針となる知見を得る。対象とする合金については、Mo量を変化させた合金やFeやAlなどの合金元素を添加させた合金等に拡大し、ベータ相の安定度が変形モード(すべり変形、双晶変形、変態誘起塑性)や靭性値などの機械的特性に及ぼす影響を検討する。比較検討のため、鍛造・圧延条件を変え、偏析組織の状態を変えた材料(例えば板圧延によって製造した層状偏析を有する材料)についても調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な原因としては、(1)予定していた学会出張において主な目的が他の研究課題での成果発表となったため、本助成金からの旅費等の支出を行わなかったこと、(2)層状偏析組織の引張変形後の組織観察に重点を置いたため、予定より引張試験片加工、シャルピー試験片加工等の発注量が少なくなったこと、の2点が挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定通り、チタン合金の溶製原料の購入および靭性等の機械的特性評価のための試験片作成を中心に、実験用の理化学用品・薬品の購入や研究成果公表のための学会参加、論文投稿に関する費用等を支出する予定である。生じた次年度使用額分については、主に追加の試験片加工および外注試験(高温シャルピー試験、平面ひずみ破壊靭性試験等)に使用する予定である。
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