本研究はベータ型Ti-Mo系合金をメインターゲットとし、Moの元素偏析を逆に利用して非常に微細かつ複雑な渦状ハイブリッド組織(Van Gogh’s Sky (VGS)組織)の作り込みを行い、Ti-Mo系合金の靭性に及ぼすVGS組織の影響を把握し、靭性向上の可能性を見極めるとともに靭性の発現機構の解明を目指すものである。 最終年度である本年度は主に以下のような成果が得られた。 (1)Ti-12Mo(mass%)合金時効材(硬質第二相であるオメガ相を析出させた材料)について偏析組織による延性、靭性発現機構を検討する一助として、ナノインデンテーション試験による局所力学応答の測定を行った。偏析組織を有しオメガ相が不均一に析出した材料について、局所硬さのみならず局所的なヤング率もオメガ相析出量の増加に伴い増加していること、 (2)Moの偏析を利用した金属組織制御の一環として、合金元素としてAlを含むTi-Mo系合金を作製し、アルファ相が析出する温度で熱処理を行い金属組織、機械的性質を調べた。主にMoの偏析に起因してアルファ相が析出する部分と析出しない部分が生じ、さらに析出するアルファ相の形態を同じ材料内で等軸状、針状等に変化させることができた。現時点で熱処理等の条件の最適化ができておらず、引張延性や破壊靭性に格段の向上は見られていないが、偏析組織による新たな組織制御の可能性は見いだされたと考える。 研究期間全体では、ある一定の条件の下ではあるがVGS組織等の偏析組織によるTi-Mo系合金の靭性(シャルピー衝撃吸収エネルギー、平面ひずみ破壊靭性値)の向上が達成できたことが成果とできる。今後合金組成や製造プロセスの最適化により、靭性を含む特性のさらなる向上を目指したい。
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