平成28年度は主として,高強度鋼管の加工硬化特性を数値解析により評価する手法の開発を目的とした.得られた主な成果を以下に箇条書きで示す. (1)平成27年度の研究で明らかにされたように,高強度鋼管の加工硬化特性を評価するためには,バウシンガー効果や交差効果を適切に表現することが重要である.一方,鋼管の成形解析で通常用いられる現象論に基づく材料構成式では,交差効果のように負荷角度が変化する経路に対する予測精度が不十分なことが調査の結果明らかとなった.そこで本研究では,次世代の材料構成式として期待される結晶塑性構成式を用いることで,高精度な予測を試みた.結晶塑性モデルには,転位密度を状態変数として考慮したいくつかのモデルを用い,モデルの違いが解析結果に及ぼす影響も併せて調査した.その結果,微視的な転位壁の発展を陽に考慮したモデルを用いた場合のみで,バウシンガー効果や交差効果を定性的に再現することができた.転位壁の発展は潜在硬化に大きな影響を及ぼすことから,この結果より,二段階負荷挙動の高精度な予測には潜在硬化のモデル化が重要であることが明らかとなった.また現象論構成式においても,潜在硬化の影響を何らかの形で考慮することが重要なことが示唆された. (2)鋼管の成形性を数値解析により予測するためには,等塑性仕事面の発展も高精度に記述できていることが前提となる.そこで等塑性仕事面の予測精度を調査するため,前述の結晶塑性モデルを用いて鋼板の等塑性仕事面の発展予測を行った.その結果,用いたいずれのモデルにおいても現状では解析精度が不十分であること,また異方硬化挙動を良好に再現するためには,{110}すべり系と{112}すべり系の活動の違いを解析上で適切に考慮することが重要なことが示された.またこのことから,等塑性仕事面の発展予測においても潜在硬化のモデル化が重要なことが示唆された.
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