本課題では,鋼材の腐食生成物である「鉄さび」について,「さびでさびを防ぐ」機能を付与し,さらにレアメタル使用量を低減した新たな高耐食性鋼材の開発を目的に,以下の研究を行った。 ① 耐候性鋼の合金金属(Cu,Cr,Niなど)の詳細な働きを調べるため,人工鉄さび粒子の生成,構造,形態,腐食寄与分子の吸着特性に及ぼすCu(II),Cr(III),Ni(II),Ti(IV)などの単独または複合添加効果を調査し,それぞれの合金金属の役割をナノ-ミクロ-マクロレベルで解明する。 ② 実環境下でのさび粒子と人工鉄さび粒子の相関をナノ-ミクロ-マクロレベルで解明する。 ③ 微細で緻密な保護性さび粒子層の形成に有効な金属あるいは元素を人工鉄さび実験で探求し,耐候性鋼のレアメタル使用量を低減した新たな高耐食性鋼材を開発する。 本課題の最終年度である平成28年度は,人工マグネタイトさび粒子の生成に及ぼす耐候性鋼の合金金属イオンの影響および耐候性鋼のレアメタル代替金属の探求を主に検討した。沿岸部で生成するマグネタイトさびの結晶化,粒子成長に対するCu(II)の影響について,添加したCu(II)は溶液中のFe(II)をFe(III)に酸化することでゼロ価Cuに還元され,安定さびであるα-FeOOHの生成を促進することが,UV-visおよびXAFS測定から明らかになった。一方,Sn(II)添加もマグネタイトさび強く生成を抑制し,その効果はCu(II)より高いため,Snの合金化は耐候性鋼のレアメタル使用量の低減となることが示唆された。同様の効果は,Mn(II)およびLa(III)添加でも確認できた。また,鋼材-γ-FeOOH粒子界面でのマグネタイトさびの生成は,水量,温度,湿度,塩水噴霧の影響を大きく受け,低水量,低温,低湿度下ではマグネタイトはほとんど生成しないことが明らかになった。
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