研究課題/領域番号 |
26420743
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
福室 直樹 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10347528)
|
研究分担者 |
八重 真治 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00239716)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 金属電析 / 水素 / 空孔 / 拡散 / 組織制御 / 昇温脱離スペクトル / 透過電子顕微鏡 / 水素脆化 |
研究実績の概要 |
金属の電析過程では水素の共析とともに多量の原子空孔(水素誘起超多量空孔)が生成し、それによって原子拡散が促進され、再結晶、相変態および界面相互拡散等の構造変化が室温または低温熱処理で観察される。本研究では、金属電析における水素誘起超多量空孔の挙動を解明することを目的とし、水素誘起拡散現象を利用した組織制御により機能性合金薄膜を作製することを試みる。さらに、電析膜の内部応力と鉄鋼材料の水素脆化における水素と空孔の相互作用機構を解明する。平成26年度は種々の金属電析膜について水素誘起超多量空孔の挙動を調べた。その結果、Cu電析膜については新たに用いた三つの電解浴(クエン酸錯体塩化物浴、EDA錯体浴およびEDTA錯体浴)で多量の水素の共析と顕著な室温再結晶が観察された。水素が共析していないCu電析膜では室温再結晶は起こらないことから、室温再結晶の主因は水素誘起超多量空孔であることが明確化された。Pd電析膜については多量に共析した水素の脱離に伴う格子収縮が観察されたことから、安定な空孔秩序構造の金属水素化物が形成されことが示唆された。Fe-C合金電析膜については炭素含有率にほぼ比例して水素含有率が増加する傾向が得られ、純Fe膜における格子収縮とFe-C合金膜における格子膨張から結晶格子内の空孔-炭素-水素クラスターの構造が決定された。この結果は、最近モンテカルロ法によって計算された純Fe中の空孔-水素クラスターの構造とほぼ一致しており、鋼の水素脆化への炭素と水素誘起超多量空孔の相互作用機構を解明するための手掛かりとなることが期待される。Ag, AuおよびPt電析膜については浴組成、添加剤および電析条件によって膜中に共析する水素の量が大きく影響され、水素の挙動と構造変化の関係は複雑であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は種々の金属電析膜について水素誘起超多量空孔の挙動を調べることを主な目的としている。Cuと Pd電析膜およびFe-C合金電析膜については多量に共析した水素の脱離に伴う粒成長や格子収縮等の顕著な構造変化が観察され、水素誘起超多量空孔の挙動がほぼ解明された。Au、AgおよびPt電析膜中の水素の挙動については不明な点が多く残されている。研究計画よりも先行して電析Co/Pt二層膜の熱処理実験を行ったところ、CoとPtの個々の層については低温で粒成長が観察されたが、界面相互拡散は起こらず合金層は形成されなかった。予想外の結果も得られているが、金属の種類と電析条件によって共析する水素の量と挙動が大きく異なるという新たな知見が得られた。これらの知見は金属中の水素誘起超多量空孔の挙動を解明する上で非常に重要な意味をもつものであり、今後の検討課題とする。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は水素誘起拡散現象を利用した組織制御によって機能性合金薄膜を作製することを主な目的として研究を行う。水素誘起超多量空孔の挙動と構造変化との関係が明らかにされたCuと Pd電析膜については、これを利用した組織制御による合金形成を試みる。Au, AgおよびPt電析膜については引き続き電解液組成と電析条件を変化させて水素の挙動と構造への影響を調べる。電析Co/Pt二層膜についてはより多くの水素が共析する作製条件を検討するとともに、Pd層を用いたCo/Pd二層膜を作製して界面相互拡散による合金層形成を検討する。Cu/Ni多層膜の熱処理実験においては、粒界拡散の影響を除くため単結晶Cu基板上にNi電析膜を整合成長させた拡散対を用いて界面相互拡散を観察する。Fe-C合金電析膜については光電子分光法と軟X線分光法による炭素の化学状態分析、陽電子消滅法による格子欠陥の解析、中性子回折法による水素原子の配置解析を予定している。また、電解液に400 MPaの高圧力を印加することができる装置が開発されたので、新たな試みとして電析金属中の水素に及ぼす圧力の影響についても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初はミクロトーム用のダイヤモンドナイフと超硬タングステン鋼製デルタナイフを設備備品費25万円で購入する予定であったが、昇温脱離分析装置の質量分析計の検出器が故障したためその修理または購入のための費用として設備備品費を確保しておいた。検出器の修理費は後で受入れた他の研究費から支出したため、設備備品費は使用しなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に当初の計画通りに設備備品費でダイヤモンドナイフと超硬タングステン鋼製デルタナイフを購入する。
|