最終年度は電析金属中の水素と内部応力、水素脆化、および水素の共析機構について検討した。Cu電析膜の水素濃度と内部応力との間に明瞭な関係は見られないことから、室温粒成長の主因は水素誘起超多量空孔であることが示唆された。Fe電析膜を試験片にして引張試験により水素脆化を評価したが、膜表面のクラックと基板の影響の排除が課題となった。Pt電析膜では水素の吸着状態と共析量の電位依存性が認められたが、Pd電析膜では電位に関係なく多量の水素が共析した。高静水圧下のNi電析では、電流効率の低下と水素濃度の増加が観察された。水素誘起効果を利用した電析膜の組織制御は、前年度の検討で合金層が形成されなかったため実施しなかった。 研究期間全体を通して、種々の金属について浴組成、添加剤、および電析条件によって共析する水素の量と存在状態は大きく変化することが分かり、高水素濃度の膜では様々な水素誘起現象が観察された。Cu電析膜の室温粒成長は初期の内部応力と集合組織に関係なく、水素の脱離とともに進行することが明確になった。一方、AgとAuの電析膜では水素脱離後の粒成長は観察されず、格子は収縮した状態であった。Pd電析膜では水素脱離に伴って格子収縮が進行したことから、金属によって空孔-水素クラスターの安定性と拡散性が異なることが示唆された。高水素濃度のFe-C合金電析膜の格子定数変化から、炭素-空孔-水素クラスターの構造が推測された。これは鉄鋼材料の水素脆化への炭素、水素、および空孔の相互作用機構を解明する手掛かりになると期待される。多くの企業からめっき膜中の水素に関する技術相談を受け、水素分析を行って問題の解決に貢献した。本研究で得られた電析金属中の水素の挙動に関する新たな知見は、めっき技術の発展にとって非常に有意義であるが、未解明な現象が多く残されているため今後更なる研究が必要である。
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