変態挙動、変態組織および組織に及ぼす磁場の影響を明らかにすることにより、磁場による組織制御がどの程度可能であるかが分かる。本研究では、拡散型および非拡散型のマルテンサイト変態について磁場の影響を様々な角度から検証した。最終年度は変態温度や組織配向度に及ぼす磁場の影響を調べた。18Niマルエージング鋼を用いてマルテンサイト変態開始温度に及ぼす磁場の影響を調べると、磁場強度が増加するほど変態温度は高くなったが、組織に磁場の影響は見られなかった。初年度は、FeNiC合金におけるマルテンサイト変態とパーライトの球状化に及ぼす磁場の影響について調べた。マルテンサイト変態の場合磁場印加により変態量は大きく増加するとともに試料内の一部できわめて大きなサイズのものが生成することが分かった。パーライトの球状化に及ぼす磁場の影響は小さい。また第一原理計算によりFe-C、Fe-B、Fe-N系合金について磁気磁気モーメントを計算し、いずれも侵入型原子が増えるほど磁気モーメントが大きくなることが分かった。この磁気モーメントの値を用いるとワイスの分子場理論を用いることにより磁気モーメントの温度や磁場による変化を計算し、磁場による変態温度の変化の見積もりに利用することができる。2年目は、磁気エネルギーの理論的な見積もりを行った。磁気エネルギーを計算することにより、磁場印加による変態温度の変化を定量的に見積もることが可能になり、磁場による変態温度の変化の予測に役立つ。磁気エネルギーは、磁化率の実測値を用いる場合とワイスの分子場理論を用いる場合について比較した。両者はほぼ一致したが、変態温度の実測値と比較するといずれの場合も変態温度の上昇を実測より大きく見積もることになった。この原因は今のところ不明である。以上のように、いずれの変態の場合も磁場により変態温度や変態組織は大きく変化することが分かった。
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